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【識者の眼】「Clinician Trialistたれ、日本の臨床家よ─コロナ禍での3年を振り返って」藤原康弘

No.5148 (2022年12月24日発行) P.56

藤原康弘 (独立行政法人医薬品医療機器総合機構(PMDA)理事長)

登録日: 2022-12-06

最終更新日: 2022-12-06

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今年も日本の医療界はコロナ禍に翻弄されたが、評論家体質の医師たちの多さには虚無感を禁じえない。海外メジャージャーナルに発表される臨床試験結果の解釈と規制当局の判断への論評ばかりが医療マスコミを賑わす現状から来年こそは皆で卒業し、臨床的エビデンスを自ら創出する気概をもったClinician Trialistをめざしたい。

コロナ禍当初、ファビピラビルの観察研究がわが国で始まった際に、アカデミアからプラセボ対照のランダム化比較試験(RCT)をやろうという大きな声はあがらなかった。デキサメタゾンのコロナ治療薬としての意義を明らかにしたRCTの英国Recovery試験はオックスフォード大学が主導し、国民保健サービス(NHS)傘下の一般病院で日常診療の一環として実施された1)。全米科学アカデミーは2017年、将来のパンデミック禍での臨床試験にはRCTが必須であると報告している2)。そのような海外の常識を日本の医師の大多数が知らないからだ。

医薬品等の開発の中で臨床試験を行う際に、規制当局が規範を示すことを待つ日本の医師がなんと多いことか。本来、医師自ら主導し、規制はサイエンスの進歩を追いかけるものと私は思う。また、日本が臨床的エビデンスで世界に貢献してこなかった末に発生した最近の「ドラッグロス」(欧米既承認、日本未承認で、開発段階から日本が仲間はずれにされる状況)の騒ぎの中で、患者個人を対象とするコンパッショネート・ユース3)が日本には存在しない(承認まで複数患者への投与を可能とする拡大治験も、ほとんど活用されていない)ことへの疑念の声も大きくなってこない。

診療と研究を併存する米国の仕組みで、アルツハイマー型認知症の治療薬アデュカヌマブの迅速承認後、全面的な薬剤費の保険給付は見送られた際に、メディケア・メディケイドサービスセンター(CMS)の所管下のCoverage Evidence Development(わが国の先進医療Bのモデルとなった制度)を活用し、承認条件で課された市販後臨床試験への参加者のみが保険診療の恩恵を受ける形で診療導入したことは4)、日本では話題になっていない。それどころか、欧米と同様の臨床研究を“合法的混合診療”として実施可能にする保険外併用療養費制度(企業治験、医師主導治験、先進医療B、拡大治験)と患者申出療養があるのに、その存在すら知らない医師が多すぎる。これらは、療養担当規則で保険診療の中での本来禁じられた研究でも、研究部分は患者の自費または研究資金で賄い、通常診療部分は保険診療で実施可能となる仕組みなのである。

わが国にも、欧米を模したとはいえ、様々な臨床試験の枠組みが用意されているのだから、宝の持ち腐れとならないよう、我々医師は様々な枠組みを活用した臨床試験の計画と実施に、自らがチャレンジしようではないか。

【文献】

1)Pessoa-Amorim G, et al:Future Healthc J. 2021;8(2):e243-50.

   DOI:https://doi.org/10.7861/fhj.2021-0083

2)The National Academies of Sciences Engineering Medicine:Integrating Clinical Research into Epidemic Response, The Ebola Experience. 2017.

   https://nap.nationalacademies.org/catalog/24739/integrating-clinical-research-into-epidemic-response-the-ebola-experience

3)FDA:Expanded Access Information for Physicians.

   https://www.fda.gov/news-events/expanded-access/expanded-access-information-physicians#ExpandedAccessTypes

4)Dhruva SS, et al:N Engl J Med. 2022;387(17):1539-41.

   DOI:https://doi.org/10.1056/NEJMp2210198

藤原康弘(独立行政法人医薬品医療機器総合機構(PMDA)理事長)[臨床試験]

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