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【識者の眼】「『病名』がなくても母性健康管理指導事項連絡カードを妊婦に発行できます」柴田綾子

No.5147 (2022年12月17日発行) P.62

柴田綾子 (淀川キリスト教病院産婦人科医長)

登録日: 2022-12-02

最終更新日: 2022-12-02

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母性健康管理指導事項連絡カード(以下、母健連絡カード)は、働く妊産婦の健康管理のために業務内容を調整することを事業主に義務づけるもので、医師(産婦人科医など)や助産師が発行します。この母健連絡カードは診断書と異なり、「病名」がなくても発行できるのがポイントです。「妊娠は病気ではない」と言われますが、妊娠による女性ホルモンの変化や子宮を支える心身の負担は大きく、妊娠初期の悪阻から腰痛/腹痛、便秘、浮腫など様々な症状に悩まされます。そんな時に使えるのが母健連絡カードです。

1. 母健連絡カードの使い方

このカードは病名ではなく「症状」に対して発行できるので、異常妊娠などの病名のない妊産婦でも使用できます。母子健康手帳に必ず入っており、厚生労働省などのHP1)からもダウンロード可能です。患者から依頼を受け妊婦健診で産婦人科医や助産師が発行することが多いです(発行料は施設ごとに異なります)。このカードを企業に提出した場合、企業には対策や対応を行う義務が発生します。依頼する対応としては、通勤緩和、休憩時間調整、作業制限(時間や場所の変更)、勤務時間短縮、休業などがあり、患者と相談して内容を決めることが多いです。

2. 新型コロナウイルス対策と母健連絡カード

現在コロナ禍において、働く妊婦が母健連絡カードを使って職場へ感染対策(在宅勤務や休業を含む)を求めることが可能となっています。母健連絡カードの記載例としては「感染のおそれが低い作業への転換又は出勤の制限」などがあり、これに対して事業主は対策の義務が生じます。この新型コロナへの対策は2023年3月31日までの暫定措置ですが、状況により延長される可能性があります。母健連絡カードを使って休業した場合の報酬は雇用主と労働者で取り決める形であり、報酬が保証されているわけではないことには注意が必要です(この休業に対して、有給を整備する企業に対して休暇制度導入助成金が準備されています)2)

母健連絡カードなどを含む妊産婦の健康管理措置は、正規雇用者のみではなく非正規雇用者も対象に含まれます。また、雇用主に対策を求めた女性に対して、解雇やその他不利益な取り扱いをした場合は男女雇用機会均等法違反となります。母健連絡カードの存在を知らない妊婦も多いのが現状です。働く妊産婦に対して、母健連絡カードの情報提供を是非お願いします。

【文献】

1)一般財団法人 女性労働協会:女性に優しい職場づくりナビ.

   https://www.bosei-navi.mhlw.go.jp/renraku_card/

2)厚生労働省:女性労働者の母性健康管理等について.

   https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/koyou_roudou/koyoukintou/seisaku05/index.html

柴田綾子(淀川キリスト教病院産婦人科医長)[働く妊産婦]

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