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【識者の眼】「医療システムとコロナレガシー」土屋淳郎

No.5134 (2022年09月17日発行) P.59

土屋淳郎 (医療法人社団創成会土屋医院院長、全国医療介護連携ネットワーク研究会会長)

登録日: 2022-09-01

最終更新日: 2022-09-01

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オリ・パラにおけるレガシー(社会遺産)とは、「整備・構築されるインフラや技術、サービスを(中略)、その後も社会の資産として活用すること」1)とされている。コロナ禍においても様々な医療システムやサービスが整備・構築されてきたが、それらは「コロナレガシー」として今後も社会で活用できるのだろうか。クラスターとなった高齢者施設に何度か往診に行っている間に感染した筆者は、患者と医師の立場からこのことについて考えてみた。

自宅療養が始まってすぐに患者としての筆者宛てにCOCOAの陽性登録を促すメッセージやMy HER-SYSの案内メッセージが届いた。COCOAについては感染初期に位置情報も収集できていれば予防対策にもっと利用できたかもしれないが、感染の流行極期になると有用性は低く、収集データの活用やシステムの孤立性を考えると、コロナレガシーとして活用し続けるのは難しそうと感じた。また、My HER-SYSは患者側から容易に症状を伝えることができるのは良いと感じたが、保健所や医療機関との連絡ツールとしては使えないことに対し、患者としては不安が残る印象だ。

医師としては、My HER-SYSを利用した患者データの集積や、HER-SYSを使って保健所と健康観察の情報共有ができたことには有用性を感じるが、コロナレガシーとして利用され続けていくには、他システムからも患者データを収集できるプラットフォームとしての機能や、患者・保健所・医療者(検査医・健康観察医・かかりつけ医・病院・救急など)の連絡ツールとして機能向上が必要ではないかと考える。またHER-SYSによる発生届の報告については、入力の手間に対して光学文字認識(OCR)+FAXといった、デジタルトランスフォーメーション(DX)の逆行とも言える対応が行われている状況を考えると、システムの利便性とともに利用者の意識も変えていかないといけないと感じる。

一方、オンライン診療やWEB問診などネットワーク上で患者と医療機関をつなぐサービスについては、非接触による感染対策にもなることからコロナ禍においてその価値を高めた。筆者も自宅療養期間中にオンライン診療を実施したが、医療の空白期間を少しでも減らすことができたことは良かった。オンライン診療の利点・欠点を正しく理解し、業務の円滑化や患者のニーズに対応して新たな価値観を高めることができれば、今後も発展していくことが期待される。

コロナ禍で整備・構築された医療システムは用途やニーズなど様々ではあるが、負の遺産とならずに「コロナレガシー」として今後も社会で役立つことに期待したい。

【文献】

1)総務省:令和2年 情報通信白書のポイント.

   https://www.soumu.go.jp/johotsusintokei/whitepaper/ja/r02/html/nb000000.html

土屋淳郎(医療法人社団創成会土屋医院院長、全国医療介護連携ネットワーク研究会会長)[新型コロナウイルス感染症]

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