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【識者の眼】「“医療否定本“への対策はあるのか?」大野 智

No.5135 (2022年09月24日発行) P.60

大野 智 (島根大学医学部附属病院臨床研究センター長)

登録日: 2022-09-01

最終更新日: 2022-09-01

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私事になるが、先日、NHK「フェイク・バスターズ」1)という番組の取材を受けた。標準治療を否定するなど医学的に不正確な情報を扱った書籍の是非についてであった。憲法で保障された表現の自由があるので書籍の出版そのものを止めることはできない。その前提で患者は、どのような対策をすればよいのか番組ディレクターから問われた。放送内容と一部重複する箇所もあるが、ポイントを列記する。

▶ヘルスリテラシー向上

ヘルスリテラシーとは、健康・医療に関する情報を「入手」「理解」「評価」「活用」するための知識や能力のことである。日本人のヘルスリテラシーは、諸外国と比較して低いことがわかっている2)。まずは、そのことを自覚し向上に努める必要がある。

▶一人で悩まない

ヘルスリテラシーにおいて、日本人は病気になったとき、専門家(医師、薬剤師など)に相談できる窓口を見つけることを特に苦手としている。この事実は、病気になったとき、誰にも相談できず一人で悩みを抱え込み、不安を解消するために書籍やネットで闇雲に情報を探す行動に繋がりやすいことを示唆している。番組では、書籍に関する専門家として、図書館司書が相談窓口として紹介されていた。

▶情報を盲信しない訓練

私見ではあるが、時には科学的に不正確な情報に触れ、疑う訓練をすることも、情報に振り回されないための一助になるかもしれない。筆者は小学生の頃、月刊ムーを愛読していた3)。ツチノコ、UFO、ピラミッド・パワーなどの話題で友人と盛り上がった記憶がある。今思えば荒唐無稽な内容だったが、当時は世の中の不思議さに思いを巡らせ、自由な空想力に刺激を受けた。しかし、いつしか「可能性はゼロではないけれども、まあ、ありえないよな」と思うに至っている。このような懐疑主義的な感覚が、医学的に不正確な情報を鵜呑みにしないための免疫として働くのではないだろうか。

最後に書籍を出版する側にも一言申し添えたい。憲法第21条で表現の自由は保障されているが、第12条では自由や権利を濫用してはならず、常に公共の福祉のためにこれを利用する責任を負う、と定められている。この点をぜひ忘れないでほしい。

【文献】

1)NHK:「フェイク・バスターズ」“出版の自由”と医療情報.(2022年8月5日)

   https://www.nhk.jp/p/ts/XKNJM21974/episode/te/JZV1V75PN6/

2)健康を決める力:日本人のヘルスリテラシーは低い.(更新日2022年1月29日)

   https://www.healthliteracy.jp/kenkou/japan.html

3)月刊ムー. https://web-mu.jp/

大野 智(島根大学医学部附属病院臨床研究センター長)[統合医療・補完代替療法

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