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【識者の眼】「旧統一教会の問題から感じたアジアへの罪責意識の分裂(split)」堀 有伸

No.5135 (2022年09月24日発行) P.54

堀 有伸 (ほりメンタルクリニック院長)

登録日: 2022-08-30

最終更新日: 2022-08-30

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世界平和統一家庭連合(旧統一教会)のことが話題になっています。それに触れて「日本人のアジアへの罪責意識の分裂(split)」ということを思いました。「分裂(split)」は精神分析で原始的防衛機制と呼ばれるもののひとつで、本来は同じ対象なのに、その良い部分と悪い部分を「良いもの」と「悪いもの」と別の対象のように分裂させて体験している(幼児的な)心理状況のことを言います。

心理療法の臨床場面では、たとえば次のような場面でsplitを考えます。ずっと自分の親の「良いところ」しか意識しないで育った、反抗期もなかった「良い子」が、社会に出て何かのきっかけでつまずいてしまい、治療を受けるようになります。自分の生い立ちを振り返って考える中で、親の中の自分を苦しめた「悪いところ」も意識されるようになります。そこで、心の中の「良い親」と「悪い親」の統合が進んでいない場合に、親を極端に「悪いもの」と体験するようになり、強い拒絶や反抗が認められるようになります。

ここで臨床家にはバランス感覚が必要になります。親への複雑な思いを支持しつつも、あまりに攻撃的な行動化は抑えるのが適当と考えます。やがて、極端に「良い親」も「悪い親」も本当のものではなく、統合された実際の親に近いイメージが再構築され、現実的な関係性が再建されるようになります(実際には、ケースによって様々な展開がありえます)。

旧統一教会に対して日本人が行った献金の額の大きさには驚くばかりですが、そのような行動に信者たちを駆り立てた心理的な要因のひとつとして、戦前・戦中の日本が韓国に対して行った帝国主義的行為の過酷さを布教活動の一部として示されることによって、「アジアに対する罪悪感」が刺激された点もあったようです。一方で、近年の日本社会では、歴史修正主義と非難されるような「戦時中の日本の行動には何の倫理的な問題もなかった」という主張が影響力を増しています。

そこから、日本社会の深層心理に「アジアに対する罪悪感」についての分裂(split)があるのではないか、と連想しました。この状況は、戦後の日本の国際社会への参入の仕方が米国との関係に集中してしまい、近隣のアジア諸国との信頼関係の構築が遅れていることと関係があると考えます。

堀 有伸(ほりメンタルクリニック院長)[原始的防衛機制

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