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【識者の眼】「医原性薬物中毒?」宮坂信之

No.5136 (2022年10月01日発行) P.63

宮坂信之 (東京医科歯科大学名誉教授)

登録日: 2022-08-22

最終更新日: 2022-08-22

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薬物中毒の患者さんには、同じような症状で複数の医療機関を受診する人もいる。本来は医療上やってはいけないことであり、臨床的にも大いに問題である。でも現実には、75歳以上の高齢者(後期高齢者)は、治療に満足しないとドクター・ショッピングをする人も少なくない。

開業医では、自律神経失調症や不安症状を訴える患者さんが多くいる。日本の開業医でよく処方されるのは抗不安薬であり、その中に、ベンゾジアゼピン受容体作動薬であるエチゾラム(商品名:デパス)がある。よく売れるので、後発品も出ている。軽症では低力価型のクロチアゼパム(商品名:リーゼ)が使われるが、高力価のエチゾラムに比べてその薬効は弱い。

このような場合に、お薬手帳にきちんと記入をしてくれれば、大きな問題は起こらない。しかし、実際には患者さん側はお薬手帳には正確に記載をせず、しかもろくに問診もせずに複数の医療機関で同じ薬が処方されることがある。そうすると、実際の総薬用量が多くなってしまう。結果的にはポリファーマシーとなる。最近では電子機器を用いたeお薬手帳も出ているが、記載しなければ同じである。

エチゾラムの場合は薬物依存性が問題となる。減量は薬効が落ちるので、患者さんが反対する。そのうちに薬物耐性が出てきて、さらに増量が必要になる。しかも、複数の医療機関から同じような薬が出ていると、そのうちに患者さんは依存性となってしまう。しかし、注意深い問診をすれば、事態を回避することができる。したがって、エチゾラムによる薬物中毒は医原性とも言われる。

患者さんが同じ症状で複数の医療機関を受診することも問題であるが、医師がエチゾラムを簡単に処方してしまうのも大いに問題である。

高齢者には不安症状などを訴えることが多くあるが、医療関係者が診察の寸暇を惜しむと大変なことが起こりうる。日本の医療費が比較的安価なことも問題かも知れない(?)。もっとも国民総医療費は高騰しつつあるが。

宮坂信之(東京医科歯科大学名誉教授)[抗不安薬]

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