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【識者の眼】「非感染性・慢性疾患の疫学者が語る『平均寿命の短縮』のみかた」鈴木貞夫

No.5130 (2022年08月20日発行) P.59

鈴木貞夫 (名古屋市立大学大学院医学研究科公衆衛生学分野教授)

登録日: 2022-08-04

最終更新日: 2022-08-04

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2021年の平均寿命が、7月29日に厚生労働省から発表された1)。男性は0.09歳、女性は0.14歳短縮し、翌日、各紙は一斉に「前年を下回るのは東日本大震災の影響があった11年以来、10年ぶり」と報じた。これは間違いではないが、本質を見誤る危険があるように思う。

ひとつは、2021年の平均寿命は、2020年よりは低いものの、2019年以前のどの年より高い。したがって、コロナ禍の2020〜21年の期間は、それ以前より平均寿命は延長しており、この間の超過死亡はないことがこれではっきり検証された。また、2020年の厳格な感染対策により生き延びた高齢者が、1年長生きして亡くなったという、ある種の「揺れ戻し」も短期的な効果のひとつである。

前回(No.5126)取り上げたランセットの論文2)では、日本の2020〜21年の超過死亡数として11万人超が計上されているが、正しい推計ではなかったことがこれで明らかになった。当然、計上されていないコロナ関連死が多いという解釈も誤りである。この論文は、世界中の国の超過死亡の推計をしたもので、世界的には、計上されているより多くの人が死亡しているという結果を出しているが、統計資料の揃わない途上国も含めて推計されたことに価値がある。日本のように統計が完備された国であれば、平均寿命が使用できるし、使用すべきである。そもそも超過死亡はどれだけ調整しようと「死亡者の数」のデータしかないのだから、死亡者の年齢、死亡が生じる人口の年齢構成を加味した平均寿命のほうが妥当性が高いのは当然であろう。

もうひとつは、寿命が縮んだといっても、男性0.09歳、女性0.14歳とわずかで、しかも短縮は高齢者の死亡の増加により起きたということである。その根拠を以下に記す。厚労省の発表資料の中に男女別の主な年齢の平均余命の前年との差1)がある。この0歳のところが平均寿命の前年との差に該当するが、その数値は年齢とともに男性は上昇、女性は横ばいである。たとえば、70歳では、男性0.13歳、女性0.14歳である。女性の0歳平均余命と70歳平均余命の前年との差が同じということは、寿命の短縮分の死亡は、70歳以降で起きたということである。男性に至っては、70歳平均余命のほうが前年との差が大きいので、70歳までは2020年より死亡率は低いということである。このことは、生命表の年齢別死亡率の差からも観察可能である。

【文献】

1)厚生労働省:令和3年簡易生命表の概況, 1主な年齢の平均余命.

   https://www.mhlw.go.jp/toukei/saikin/hw/life/life21/dl/life18-02.pdf   

2)COVID-19 Excess Mortality Collaborators:Lancet. 2022;399(10334):1513-36.

鈴木貞夫(名古屋市立大学大学院医学研究科公衆衛生学分野教授)[超過死亡]

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