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【識者の眼】「発熱救急患者の出口問題」薬師寺泰匡

No.5129 (2022年08月13日発行) P.56

薬師寺泰匡 (薬師寺慈恵病院院長)

登録日: 2022-08-02

最終更新日: 2022-08-02

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コロナ第7波が本格化し、小児の患者を中心に若年層でも患者が増え、入院はもちろん外来受診も困難な状況になってきている。需要供給バランスは一瞬で崩れる。この状況においても、政府からは国民一人ひとりの感染予防策の呼びかけにとどまっており、感染者を減らして事態の打開に動くのか、供給をある程度諦めて事態の収束を待つのかという方向性すら見出せないままである。以前のように、自宅で多数の患者が死亡したり、救急車内で何時間も酸素を消費しながら待機したりというようなことは起こってはいないが、医療従事者やその家族の感染で勤務ができないことも増え、医療供給はあからさまに低下している。

このような状況の中、救急車が搬送困難に陥らないよう、一部の積極的に搬送を受け入れている病院で集中的に対応したり、搬送先を分散させたりしつつ、地域の実情に応じてなんとか診療の継続をしているところである。ただ、遠方への救急搬送も常態化しており、COVID-19の診断がなされている例や、その疑い例では、帰宅手段がなく困る場合も多々ある。入院ができず、帰宅もできずという状況では、患者がそこにとどまってしまい、どうすることもできなくなってしまう。現状は比較的軽症患者の行き先解決が課題となっている。入院適応ではないが、ホテル療養は望ましいというような患者群が多く発生していることを実感している。夜間などは特に問題となり、どこにも行き場所がない事実を前に、しばらく救急車を占有した結果、患者側から搬送を諦めることも珍しくない。

海外のERがパーフェクトなシステムであるとは思わないが、いわゆる北米型ERと言われる施設では、待機できる個室を多数設けたり、発熱患者をコホート化して待合室を区切ったりといった対策をしつつ、救急外来で待ち時間を発生させつつも、一応の対応はできる体制はとっている。経過観察ベッドも多数設けており、入院させるほどではないが、帰宅までに時間を要する例における緩衝材の役割を果たしている。

突然こうした対策が可能になるような設備を整える事業や、人員確保ができるわけもないが、たとえばホテル療養に24時間体制で送れるような制度を整えたら、幾分か出口問題の解決にはなるのではなかろうか。入院が要らなければ、一旦ホテル預かりとするようなルールを策定し、移動手段の確保をすることで、発熱患者の受け入れハードルはかなり下がるだろう。

薬師寺泰匡(薬師寺慈恵病院院長)[新型コロナウイルス感染症]

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