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【識者の眼】「発生届の簡素化は第7波で役立っているのか」関なおみ

No.5127 (2022年07月30日発行) P.57

関なおみ (東京都特別区保健所感染症対策課長、医師)

登録日: 2022-07-20

最終更新日: 2022-07-20

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2022年6月30日、国は新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の発生届様式をOCR(光学文字認識)化し、検査やワクチン接種歴の詳細だけでなく、症状、職業、感染地域などの項目を削除した1)2)。第7波において、これらの簡素化は役に立っているのか。

陽性者が増えると入力が追い付かなくなり、HER-SYSで提出していた医療機関も手書きに切り替え、18時以降に多量のFAXが保健所へ送られてくる状況は第6波とほぼ変わらない。当保健所では活用していないが、OCRの読取りに耐えうる精度の字体ではないものがほとんどで、今後の検証で「欲しかったのは、これじゃない!」3)の一例になることだろう。

発生届の改定当初、職業や感染地域等の項目がなくなれば、疫学調査の優先順位付けができないと保健所は難色を示したが、第7波が到来し、今まで以上の感染爆発が生じている状況では疫学調査どころではなくなってしまったため、大きな問題にはなっていない。とはいえ障害者や高齢者であれば、せめて施設入所中なのか入院中なのかぐらいは記載いただけると、迅速に集団感染を探知することができる。

一方、必須項目として残った基礎疾患の有無、重症度分類4)、入院の必要性について、記載率が上がったかというと、そうでもない。いまだに検査結果のみの記載で送ってくる医療機関が後を絶たず、このままでは「本当に医師の診察が必要なのか。本人もしくは検査機関が結果だけ申告するシステムに変更した方がいいのではないか」という議論になりかねない。

BA.5が重症化しにくいといっても、絶対数が増えれば重症者が増えるのは当然であり、入院病床がひっ迫しないわけがない。その中で、優先順位付けしながら療養方針を立てるために、少なくとも基礎疾患や重症度の情報は不可欠であるので、診断した医療機関での入力をぜひお願いしたい。

医療機関のHER-SYS入力率を上げるためには、むしろHER-SYSの入力禁則処理の自動化、適切な必須項目の設定やエラーチェック機能の強化、電子カルテやVRS等各種システムとの連携が必要である5)。HER-SYSを使いやすくすること、医療機関のデータ入力体制を支援することが、COVID-19の診療を行う医療機関を増やすことにもつながる。

この2年間でワクチン、定期的検査、治療薬など、武器は増えつつも、決定打がない以上、臨床現場と保健行政が手を取り合って乗り越えていくしかない。引き続き、HER-SYSをプラットホームとした連携を主軸に、COVID-19対策を強化していくべきと提言する。

【文献】

1)厚生労働省結核感染症課長通知:感染症の予防及び感染症の患者に対する医療に関する法律施行規則の一部を改正する省令の公布について(公布通知).(令和4年6月30日)

   https://www.mhlw.go.jp/content/000958881.pdf

2)厚生労働省結核感染症課長通知:感染症の予防及び感染症の患者に対する医療に関する法律第12条第1項及び第14条第2項に基づく届出の基準等について(一部改正).(令和4年6月30日)

   https://www.mhlw.go.jp/content/000958882.pdf

3)千正康裕:官邸は今日も間違える. 新潮社, 2021.

   https://www.shinchosha.co.jp/book/610934/

4)新型コロナウイルス感染症(COVID-19)診療の手引き・第8.0版 4重症度分類とマネジメント.

   https://www.mhlw.go.jp/content/000967699.pdf

5)関なおみ:保健所の「コロナ戦記」TOKYO2020-2021. 最終章 残された課題, 光文社, 2021.

   https://www.kobunsha.com/shelf/book/isbn/9784334045784

関なおみ(東京都特別区保健所感染症対策課長、医師)[新型コロナウイルス感染症]

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