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肺膿瘍[私の治療]

No.5122 (2022年06月25日発行) P.44

荒川 悠 (高知大学医学部呼吸器・アレルギー内科学教室)

登録日: 2022-06-27

最終更新日: 2022-06-23

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  • 肺膿瘍は,主に誤嚥を契機とした肺実質の化膿性感染症である。そのため,原因微生物は口腔内常在菌や嫌気性菌を中心とした複数菌による混合感染であることが多い。頻度は下がるが,黄色ブドウ球菌やクレブシエラ属,緑膿菌などの単一菌の感染でも起こりうる。誤嚥以外の機序として,腫瘍などによる閉塞や敗血症性塞栓からの膿瘍形成がある。

    ▶診断のポイント

    肺炎と思われる病歴で,胸部CTにて肺の空洞性病変や空洞内部に液体貯留がみられる場合や,浸潤影の内部が低吸収域となっている場合などに疑う。一方で空洞性病変をきたす疾患は多岐にわたり,また,その混在もみられるため,注意が必要である。

    感染症ではノカルジアなどの放線菌,結核や非結核性抗酸菌のほか,クリプトコッカスやアスペルギルスなどの真菌で空洞性病変をつくることがある。免疫不全者のアスペルギルス症以外では比較的慢性経過をたどることが多いため,病歴,特に時間経過が重要である。悪性腫瘍では特に扁平上皮癌で内部が壊死し,肺膿瘍との区別が困難である。一方で,感染を合併することで当初肺膿瘍として治療しても難治性であり検査したところ肺癌であった,ということも多い。そのほか,結節性多発動脈炎でも肺の空洞性病変がみられるため,鼻症状や腎機能などにも注意を払う。

    鑑別のためには気管支鏡検査が有用だが,専門医やツールの問題から即座に施行できる施設は多くないと思われる。そのため,経験的に抗菌薬を投与し,改善しない場合にこれらの検査を検討することが多いと思われるが,大事なことは抗菌薬投与前に各種培養を提出しておくことで,少なくとも喀痰と血液培養は提出しておくことが望ましい。

    ▶私の治療方針・処方の組み立て方

    全身状態と画像所見,微生物学的所見から発症機序を推定する。具体的には,誤嚥を起こすような状態であるかどうかや,口腔内の衛生状態,飲酒歴などを聴取し,胸部CTでの陰影の分布や既存の病変の有無を確認する。喀痰のグラム染色所見で,複数菌によるものなのか,単一菌によるものなのかを判断し,血行性散布による敗血症性塞栓を考慮し血液培養も提出する。全身状態とA-DROPなどの重症度スコアを参考に,内服治療とするか入院治療とするかを決定するが,個人的には肺膿瘍へと至っている場合は可能な限り入院して,点滴治療とするほうが望ましいと考える。

    経験的治療においては,嫌気性菌カバーが可能な抗菌薬を投与することが必要であり,βラクタマーゼ配合ペニシリンであれば単剤で対応可能であり,第一選択薬となる。

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