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【識者の眼】「妊娠中の薬剤使用における安全性評価、ビッグデータ分析の広まり」重見大介

No.5125 (2022年07月16日発行) P.66

重見大介 (株式会社Kids Public、産婦人科オンライン代表)

登録日: 2022-06-20

最終更新日: 2022-06-20

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妊娠中には頭痛や腰痛、皮膚の痒みなどマイナートラブルが生じやすく、薬の使用を希望する妊婦は多い。また、何らかの既往症を有している、妊娠中にうつ病を発症するなどして服薬が望ましい場合も少なくない。こうした際に、妊娠中の薬剤使用における安全性は常に懸念されるところである。

新規の薬剤が承認されるための臨床試験(治験)では、妊婦が被験者から除外されることが一般的であり、妊娠中の安全性についてはほとんどが評価されないまま承認されることが多い。このため、近年ではリアルワールドデータを用いた大規模データベースによる安全性評価が広がりつつある1)。リアルワールドデータとは、平たく言えば「日常診療で恒常的に記録され、蓄積されたデータ」である。海外先進国に比べると遅れをとっている面が目立つが、わが国でも、リアルワールドデータを様々な臨床研究や薬剤安全性評価に利活用する動きが徐々に活発化してきている。

いくつか国内外における研究例を挙げておく。2022年5月にNeurology誌に掲載された論文では、スウェーデンのレジストリを用いて120万人を超える小児を分析し、母親の妊娠中の抗うつ薬(SSRIおよびSNRI)の使用と新生児痙攣およびてんかんリスクの関連を検討した2)。幅広い因子を調整した上での因果推論を試みており、結果として妊娠中のSSRIまたはSNRI使用と新生児痙攣・てんかんに有意な関連は認められなかったことが報告された。また、筆者自身が携わった研究として、妊娠中のうつ病に対する漢方薬や、妊婦に対する眼圧降下薬の使用における胎児への安全性に関する論文が国内のレセプトデータベースを用いて報告されている3)4)

妊婦における薬剤の安全性評価には、倫理面やコスト面など様々な制約が存在する。コロナパンデミック下におけるコロナウイルスワクチンの安全性についても大規模なリアルワールドデータが用いられたことも含め、こうした動きは今後より活発化していくだろう。

【文献】

1)Corrigan-Curay J, et al:JAMA. 2018;320(9):867-8.

2)Wiggs KK, et al:Neurology. 2022;98(23):e2329–36.

3)Michihata N, et al:Int J Gynaecol Obstet. 2022 May 1. doi:10.1002/ijgo.14237.

4)Hashimoto Y, et al:Br J Ophthalmol. 2021;105(10):1390-4.

重見大介(株式会社Kids Public、産婦人科オンライン代表)[リアルワールドデータ]

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