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【識者の眼】「たかがナトリウム、されどナトリウム」宮坂信之

No.5124 (2022年07月09日発行) P.65

宮坂信之 (東京医科歯科大学名誉教授)

登録日: 2022-06-08

最終更新日: 2022-06-08

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高齢者では電解質、特にナトリウムが変動することが多い。しかし、かなりのものは医原性でもあることを忘れてはならない。

日常、高ナトリウム血症あるいは低ナトリウム血症がみられることは決して少なくない。しかし、からだには緩衝(バッファー)機能があるために、食事摂取や水分摂取が偏っても、血清ナトリウムは比較的、影響を受けにくい。

高ナトリウム血症は血清ナトリウムが145mEq/L以上のときを指す。水分が極端に飲めなかったり、下痢の回数がひどいと、脱水により血清ナトリウムが上昇する。利尿薬を使いすぎても、高血糖でも同じ状態が起こる。しかも高齢者でみられやすい。

抗利尿ホルモンであるバソプレシン(ADH)は尿量を調節するホルモンで、脳下垂体から産生される。ADHの受容体は腎臓にある。しかし、薬剤によって腎臓でADHが効かなくなると(薬剤を開始して数週から1年間で発症することが多い)、尿量が増える(1日3000mL以上)。しかも、多尿、口渇をきたす。これを腎性尿崩症ともいう。有名なのは、躁状態の治療薬である炭酸リチウムである。他にも抗リウマチ薬(ロベンザリット、2021年3月末経過措置満了)、抗菌薬(アムホテリシンBなど)など多岐にわたる。

一方、低ナトリウム血症は血清ナトリウムが136mEq/L以下をいう。この場合は、体内の総ナトリウムに対して水過剰の状態となることが多い。特に、向精神薬の長期使用中に著明な低ナトリウム血症がみられた際には、SIADH(抗利尿ホルモン不適合分泌症候群)を考える。脱水は認めず、頭痛、意識障害などをきたし、著明な低ナトリウム血症が認められる。SIADHはADHの過剰分泌によって起こる。

高ナトリウム血症も低ナトリウム血症も薬剤が原因の場合には、薬剤を中止しなくてはならない。浸透圧が大きく変わると、高齢者では脳などの組織障害が起こりやすい。ナトリウムも決してバカにならない。症例に応じた定期的な電解質のモニターが必要である。

宮坂信之(東京医科歯科大学名誉教授)[電解質]

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