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【識者の眼】「非感染性・慢性疾患の疫学者が語る『ワクチン報道のクセ』」鈴木貞夫

No.5120 (2022年06月11日発行) P.54

鈴木貞夫 (名古屋市立大学大学院医学研究科公衆衛生学分野教授)

登録日: 2022-06-06

最終更新日: 2022-06-06

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日本で、世界で、オミクロン株感染が収束に向かい、 社会経済活動再開に向けての模索が行われている。このような感染収束局面で、ワクチン報道も変化する。かつて、「確保に出遅れ」や「議員の優先順位違反」で批判を受けていたワクチンも、現時点では、「効かない」「危ない」など、デマも含めて効果や安全性に疑問を持つような情報が溢れている。知識があれば、デマは見抜けるものの、報道も慎重にしないと、「隠蔽」や「改竄」、さらに「陰謀」へと、思わぬ方向に話が膨らむこともある。

中部日本放送(CBC)のニュースで、「新型コロナワクチンを打っても未接種扱いにしていた」という報道がなされ、Yahooニュースに転載1)されると、コメント欄は大いに荒れた。この件は、接種情報の欠測者を接種なしとして扱った結果、ワクチン効果が過大評価されたとしたもので、厚生労働省は「理由は不明だが意図的なものではない」とコメントしている。由々しき事態ではあるが、ここでは、意図的改竄ではなく、私の考えるこの問題の本質についてまとめたい。

初めの問題は、感染者リストの「接種情報の欠測があまりに多い」ということである。陽性者のワクチン情報は、聞き取りによるものだが、本来、ワクチン接種者リストと突合できるものであり、それがなされていない点は解決すべきだ。デジタル化と言いつつ、紙情報が使用されているのが、最大の問題と考える。2つ目の問題は、データの一つひとつは都道府県のものであり、「分析は都道府県でできるのに報告がない」ということである。私も解析の希望を伝えてはいるつもりだが、現時点では成功していない。大学で仕事をしていると、データベースがあるのに、解析されていないということに大きな違和感を覚える。このほかに、「欠測を未接種と扱ったこと自体の問題」もあるが、解析の専門家の仕事とは思えないし、ダブルチェックもできていない。これは、能力不足とシステム不全の問題で、隠蔽や改竄とは到底思えない。

ワクチン行政を円滑に進めるためにエビデンスは必要であり、客観的で妥当なデータ解析は欠かせない。そもそも厚生労働省も、集計の集計をしただけで、解析はなされていない2)。解析の「手」は私を含め、どこにでもあると思うので、データの責任者からの連絡をお待ちする次第である。筆者は法的事項には不案内であるので、何らかの規制があるのなら、それもご教示願いたい。

【文献】

1)Yahooニュース:新型コロナワクチン打っても“未接種扱い”にしていた. 2022年5月27日.

   https://news.yahoo.co.jp/articles/302956e09ab38e2d48292a38a03cbbacf24b7340

2)第83回新型コロナウイルス感染症対策アドバイザリーボード 資料2−5. 2022年5月11日.

   https://www.mhlw.go.jp/content/10900000/000937646.pdf

鈴木貞夫(名古屋市立大学大学院医学研究科公衆衛生学分野教授) [新型コロナウイルス感染症]

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