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【識者の眼】「プライマリ・ケア診療とLGBTQ」松村真司

No.5119 (2022年06月04日発行) P.58

松村真司 (松村医院院長)

登録日: 2022-05-25

最終更新日: 2022-05-25

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もう20年以上前、私がプライマリ・ケア・リサーチ・フェローとして米国へ留学していた頃の話である。研究室をシェアしていたフェローの仲間の一人にアリソンという女性がいた。慣れない環境と日々直面する課題にモタモタしている私に対し、研究手法から臨床的な問題に至るまで、いろいろな場面で彼女は私を助けてくれた。フェローたちは定期的に研究の進捗状況を発表するのであるが、ある日彼女のプレゼンテーションを見て鈍感な私はようやく気が付いた。彼女が取り組んでいたのはLGBTQの患者の健康問題であり、彼女はその当事者であったのだ。留学生というマイノリティーである当時の自分に対し惜しみもなく支援の手を差し伸べてくれたのは、性的マイノリティーとしての自身の想いが反映されていたのかもしれない。

時がたち、わが国においてもLGBTQの人々を取り巻く環境は変化した。当院の通院患者でもこれらの方々が増えているのは明らかに実感するところである。いや、実際は増えているのではなく、これまでは隠れていて、ただ単に私たちの感受性が不足していただけなのだろう。調査方法によってばらつきはあるが、わが国のLGBTQの割合は人口の3〜8%とされている1)。この割合は、学校でいえば40人のクラスでは2〜3人いる計算である。少なくとも無視できる数ではなく、困っていることがあればその困りごとに対して対応することは当然必要である。

とりわけ地域の人々の健康問題に幅広く対応するプライマリ・ケアを提供する診療所では、これらの人々への配慮が必須な時代になっている。一方、LGBTQの人々のヘルスケアについてこれまで適切な教育を受けてきた医療職は、自分も含めて少ないのが現状である2)。しかし、書籍3)をはじめ情報源や、ワークショップなどの学習機会4)も整備されつつあり、今後さらなる充実を期待したいところである。また、LGBTQ以外でも、様々な障壁を持っているためにヘルスケアへのアクセスがしづらい人々に対して、きめ細かく対応していくことは、これからの地域のプライマリ・ケアを担う診療所にとって重要な要件になっていくであろう。

【文献】

1)LGBTQとは? 東京レインボープライドホームーページ. https://tokyorainbowpride.com/lgbt/l

2)Yoshida E, et al:BMJ Open. 2022;12(5):e057573.

3)吉田絵里子, 総編集:医療者のためのLGBTQ講座. 南山堂, 2022.

4)一般社団法人 にじいろドクターズ. https://www.nijiirodoctors.com/

松村真司(松村医院院長)[LGBTQ][マイノリティー]

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