No.5117 (2022年05月21日発行) P.61
柴田綾子 (淀川キリスト教病院産婦人科医長)
登録日: 2022-05-10
最終更新日: 2022-05-10
2021年11月に日本で初めて、更年期障害のホルモン補充療法に使用する天然型黄体ホルモン(プロゲステロン:エフメノ®)が発売されました。更年期障害は、閉経の前後5年(合計10年)の間に起こる女性ホルモン(エストロゲン)の低下症状で、日常生活に支障があるものを指します。更年期の症状は個人差が大きく、40代後半〜50代に起こる本疾患における日本での女性の離職率は少なく見積もっても20万人、経済損失は1848〜4196億円と推定されています1)。2022年4月、厚生労働省は初めて更年期障害の実態調査を開始すると発表しました。
更年期障害(特にホットフラッシュ)に対してはホルモン補充療法が1番効果の高い治療法です。ただしエストロゲンの単独投与を続けていると、子宮内膜が厚くなり子宮体癌のリスクが増加します。子宮体癌のリスクを増加させないよう、子宮を摘出していない女性にはエストロゲンに加えて黄体ホルモンを併用することが推奨されています。これまで日本には天然型黄体ホルモンの経口剤はなく、合成型黄体ホルモン(合成型はプロゲスチンと呼ぶ)の、ジドロゲステロン(デュファストン®)やメドロキシプロゲステロン酢酸エステル(ヒスロン®、プロベラ®)などが使用されてきました。
天然型黄体ホルモンのメリットは、合成型に比べて乳癌と血栓症のリスクが低いことです2)。血栓症のリスクは、エストロゲンを経皮投与(貼付剤やジェルなど)にすることでも減らすことができます。一方の副作用は、眠気・倦怠感・嘔気などです。本剤は食後に内服すると血中濃度が上昇し副作用が強くなるため、就寝前の内服が推奨されています。新規薬のため、薬価が高めであること(1錠229円)と、発売から1年間(2022年11月まで)は1度に2週間分しか処方できないのが課題です。
今回新しく薬が発売されたことで、乳癌や血栓症のリスクを心配されていた方にも、ホルモン補充療法を提案しやすくなったのではないかと思います。更年期障害で困っている女性を見かけたら、ぜひホルモン補充療法と産婦人科受診をご紹介ください。
■使用方法
〈持続投与法〉
・エストロゲンと併用し毎日1日1回1錠(100mg)を就寝前に内服
〈周期投与法〉
・エストロゲン投与開始日を1日目として
15日目から28日目まで1日1回2錠(200mg)就寝前に内服
これを1周期とし、以後この周期を繰り返す。
*本記事にCOI(利益相反)はなく、筆者は販売会社より資金を得ていません。
【文献】
1)周 燕飛:JILPTリサーチアイ 第70回 働く女性の更年期離職. 2021年11月5日.
https://www.jil.go.jp/researcheye/bn/070_211105.html
2)Hamoda H, et al:Post Reprod Health. 2020;26(4):181-208.
https://journals.sagepub.com/doi/pdf/10.1177/2053369120957514
柴田綾子(淀川キリスト教病院産婦人科医長)[ホルモン補充療法]