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【識者の眼】「『検査も薬も最小限』が基本」谷口 恭

No.5117 (2022年05月21日発行) P.64

谷口 恭 (太融寺町谷口医院院長)

登録日: 2022-04-26

最終更新日: 2022-04-26

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「識者」と呼ばれるには力不足だが、都心部の診療所から総合診療医のホンネを述べたい。今回が全12回の第4回目。 

学生の頃、ある先生が言っていた。「医療と資本主義は相いれない。医療機関は利益を追求してはいけない」と。だが、いざ研修医になってみると、「交通事故は儲かる」とか「〇〇は利益率が高い」といったことを口にする先輩医師が少なからずいて幻滅していた。

そんななか、深夜の救急外来で「子供のCTを撮れ!」とすごむ男性に対し、「不要です」と毅然と応対されたある脳外科医の先生が忘れられない。僕が研修医だったその当時の救急外来では1999年の「杏林大病院割りばし死事件」が後を引いていた。喉から入った割りばしが小児の小脳にまで到達し翌日に死亡した事故で、CTを撮影しなかった医師の過失が問われたのだ。それ以降、患者側にも医師側にも「子供の頭部外傷にはまずCT」という不文律があるかのようだった。

その脳外科医は、怒り狂う患者に対しても冷静な態度を変えなかった。この外傷では脳に影響があるとは考えられないこと、CTにはそれなりの被曝が伴うことなどを繰り返し説明されていた。父親はそれでも納得せずに最後は捨て台詞を吐いて帰って行ったため、脳外科医も後味の悪さを感じられたかもしれないが、僕はそれ以来その先生を勝手に「師」と崇めている。

「検査も薬も最小限」と開業以来言い続けている。なかには「おカネ払うのあたしですよね……」とネチネチと攻撃してくる患者もいるのだが、患者の希望どおりの検査をして希望どおりの薬をそのまま出すような者はもはや医師とは呼べない。

僕がChoosing Wiselyという言葉を初めて聞いたのは過剰な検査や薬を求める患者に悩んでいた2014年頃、確か米国の医療系ニュースサイトがきっかけだった。「これは使える!」と直感した。「過剰な診療を見直そうという動きが世界中で広がっていて、このケースも該当するんですよ」と患者に説明できるからだ。

そこで、Choosing Wisely Top10というページを当院のウェブサイト内に作り、該当する診療を求められた時には患者にそのページを示して説明するようにした。ちなみに、当院で求められる「無駄な診療」のトップ3は、「アレルギー関連の検査」「鎮痛薬」「ベンゾジアゼピン」だ。

「検査も薬も最小限」は残りの医師生命を賭して主張し続けるつもりだ。賛同してくれる医療者は実はそれほど多くないのだが……。

谷口 恭(太融寺町谷口医院院長)[Choosing Wisely]

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