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【識者の眼】「チャイルド・デス・レビュー(CDR)とは①」沼口 敦

No.5115 (2022年05月07日発行) P.62

沼口 敦 (名古屋大学医学部附属病院救急・内科系集中治療部部長、病院講師)

登録日: 2022-04-06

最終更新日: 2022-04-06

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子ども(本稿では18歳未満を指す)の死亡はわが国の全死亡の約0.3%である。本来死ぬべき存在といえない子どもが亡くなることは本当に痛ましい出来事であり、数こそ少ないとはいえ、家族、関係者、社会に対するインパクトの大きさは計り知れない。

「チャイルド・デス・レビュー(CDR)」という用語がわが国に紹介されて10年以上が経過した。この間には成育基本法(通称)が成立し、子どもの死亡原因に関する情報の収集、管理、活用等に関する体制とデータベースの整備が求められることとなり、死因究明推進基本法にもその検討が謳われた。米国ナショナル・センターを訪問すると、「既に稼働している(英米などの)制度の強みや課題を知った上で新たな制度を設計できるのはうらやましい」と励まされた。その上でCDRという呼称について、「今から名前をつけ直すことができるなら、自分だったら『予防(prevention)』という単語を入れたい」と言っていた。実際、お土産にいただいたマグカップには「centre for CFRP(Child Fatality Review for Prevention)」と印字がある。結局わが国では、「予防のための子どもの死亡検証」との訳が当てられた。

これまでも様々な死亡の検証がなされている。病院や大学では、合併症と死亡の検討会(M&Mカンファレンス)、臨床病理検討会(CPC)など、業務の一環として医療を振り返る場があり、第三者を含む医療事故調査制度も存在する。医療機関の外では、法医学による死因究明制度、児童虐待重大事例検証、学校事故の検証、自殺といじめとの関連検証、消費者事故等の原因調査など、やはり多様な検証が行われている。多くに共通する課題として、当該制度の知りえた件を誠実に処理するが、持ち込まれなかった案件に対しては無力であることが挙げられる。恣意的に検証対象が選択されることはないにしても、本来なら検証されるべき重要な対象が把握されない懸念は残る。そこで、すべての死亡例を俯瞰した上で特に重要なものを抽出する作業、いわゆるプッシュ型の通知が、その対策となる。

予防のための成果志向的で、取りこぼしなく網羅的に、子どもの死亡を検証する仕組み。それをめざして、現在「わが国のCDR」の仕組みが模索されている。

沼口 敦(名古屋大学医学部附属病院救急・内科系集中治療部部長、病院講師)[子どもの死亡]

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