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【識者の眼】「世界史の中で……想定外を覚悟せよ!」神野正博

No.5111 (2022年04月09日発行) P.56

神野正博 (社会医療法人財団董仙会恵寿総合病院理事長)

登録日: 2022-03-31

最終更新日: 2022-03-31

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キエフ、ミンスク、サンクトペテルブルク……ブタペスト、プラハなどとともに東欧の美しい街並みを思い浮かべる。いつかは行ってみたいと思うが、もちろん行ったことはない。昔々、ソ連の時代だが、パリやロンドンに向かう折に、モスクワ経由便を利用した。地図を広げると、航路にキエフやミンスクの文字が並んでいたのを思い出す。これらの街へのあこがれと同時に、旧東側諸国ということで、スパイ映画の舞台であり、少しだけ怖さも感じてしまう。

世界史、特にこの東欧に関する歴史は決して得意ではない。しかし、キエフの名は、チンギス・カンの西征の最西端であり、また、ナポレオンのロシア遠征の戦場であり、ヒトラーが東部戦線でモスクワではなくキエフをめざしたことでも有名だ。

このようにウクライナは、東西の接点としての要衝だ。しかも、穀物庫と呼ばれるほど小麦の一大生産地であり、鉄鉱石に石油と地下資源が豊富だ。すなわち、この地はプーチン大統領が言うNATO加盟、非加盟という問題以上に、地政学的、経済的な重要地点であるということのようだ。

ロシアは2月24日、ウクライナに対する軍事侵攻という暴挙に踏み切り、ロシア軍とウクライナ軍の戦闘が続いている。これから先にはどうなっていくのか、あまりに多くのシナリオがあり予想がつかない。

武力をもってすべてを解決するといった暴挙は、どのような理由があっても許されるものではない。平和的な話し合いによる1994年の「ブタペスト覚書」で米国、英国、ロシアによって、ウクライナの軍縮に引き換えて「領土保全、政治的独立」に対する安全保障を提供することで合意されていたのだ。平和の名の下で軍縮し、そしてそれを反故に侵略だ。安全保障に関する約束事、条約など、時の為政者にとっては何でもないことが証明された。

さて、わが国は平和が当たり前だ。今の日本人にニュース映像やSNSで流れるウクライナの国民のように身体を張って自らのアイデンティティを守る覚悟があるか。寝ぼけていないか。

性懲りもなく歴史は繰り返す。ナポレオンやヒトラーの後に独裁化したプーチンが続き、習近平が続くかもしれない。

想定外に対応するということで、われわれは事業継続計画(BCP)を策定する。その対象は、地震、津波、豪雨、豪雪など自然災害ばかりではない。これからはサイバーセキュリティも重要だ。そして、さらにはテロ対応や侵略などの折に、どうやって自らの事業と顧客を守るのか、覚悟を決めておかねばならないのかもしれない。

私たちは桜花を愛で春の柔らかな光を浴びる。たった7時間という時差の後に、同じ光を浴びるウクライナ国民はどういう気持ちなのか。同じ地球人として自らの無力を感じながら、自らの覚悟の甘さを反省する。

神野正博(社会医療法人財団董仙会恵寿総合病院理事長)[ウクライナ侵攻][BCP]

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