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【識者の眼】「日本のメディアに科学性を」岩田健太郎

No.5113 (2022年04月23日発行) P.59

岩田健太郎 (神戸大学医学研究科感染治療学分野教授)

登録日: 2022-03-31

最終更新日: 2022-03-31

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3月30日のNHKのウェブニュース1)によると、新型コロナウイルス感染が広がった2020年度では、コロナがなかった場合と比較して、自殺数が増加していた。特に若い女性にその傾向が顕著だった。

こういう日本の報道は貴重だが、不満がある。それは元論文へのリンクがないことだ。この場合もネットであれこれ検索して、ようやく著者たちが大学のホームページで発表した研究内容2)に行き着き、ここから元論文3)を探し当てることができた。

こういう医学系の研究発表が報道されたとき、もしそれが僕の興味を引くトピックであれば、僕は必ず元論文を参照することにしている。報道はしばしばミスリーディングだったり、針小棒大だったりするからだ。それは、特に日本のメディアに共通する問題で、海外の(僕が読むことができる範囲で、だが)報道はもっと内容がしっかりしていることが多い。率直に申し上げて日本の科学報道はかなりお粗末なことが多い。

1つには、記者にクリティークが足りない。たとえば、記事では失業率の推移が自殺件数の推移に似ている、として、失業が自殺の増加に寄与しているのではないか、という研究者の仮説を紹介している。

しかし、厚労省のデータ4)によると、男性の失業率がコロナ前後で2.5%から3.2%と0.7%アップしたのに対して、女性の失業率は2.2%から2.6%と0.4%しかアップしていない。こういう矛盾を、ジャーナリストはちゃんとツッコむべきだ。

正直、ジャーナリストたちは元論文をちゃんと読んだのかどうかも疑わしい。日本の場合は研究者がプレスリリースをして、彼らの記者会見をそのまま記事に書き写すパターンが多いように思う。この形式だと、当然、クリティークは生じにくい。

BBCのポッドキャストをよく聞くが、彼らが科学的新発見をニュースにする時は研究者にインタビューする。その時の記者のツッコミはかなり鋭い。「あなたの主張は、誇張なのではないですか」「病気の治療に役立つと言われるが、実現するのは何年くらいですか」

そして、ノーベル賞報道が典型だが、日本の科学報道はかなり属人的だ。「なに」がわかったか、よりも「だれ」が発表したかがニュースバリューを持つ。個人的には「だれ」はどうでもよいのだから、who型の報道からwhat型の報道に成長して欲しいと思っている。

【文献】

1)https://www3.nhk.or.jp/news/html/20220330/k10013558221000.html

2)https://www.yokohama-cu.ac.jp/news/2021/20220330horitanobuyuki.html

3)https://jamanetwork.com/journals/jamanetworkopen/fullarticle/2790486?utm_source=For_The_Media&utm_medium=referral&utm_campaign=ftm_links&utm_term=032922

4)https://www.mhlw.go.jp/content/11601000/000755346.pdf

岩田健太郎(神戸大学医学研究科感染治療学分野教授)[科学報道]

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