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【識者の眼】「外来診断訴訟の高リスク:胸水」徳田安春

No.5114 (2022年04月30日発行) P.64

徳田安春 (群星沖縄臨床研修センターセンター長・臨床疫学)

登録日: 2022-03-29

最終更新日: 2022-03-29

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胸水をきたす病態での診断遅延は時に問題になる。特に、膿胸や結核性胸膜炎、悪性胸膜炎などだ。膿胸や肺炎随伴性胸水の診断遅延の原因は胸水検査の遅れのことが多い1)。診断とドレナージが遅れると、胸膜の線維性肥厚化や肺の縮小をもたらす恐れもあり、胸腔鏡手術が必要になることもある。

また、結核性と考えたケースが実は悪性疾患であったという場合も多数報告されている。全身性エリテマトーデス(SLE)などの膠原病による胸膜炎と考えていたケースが実は結核だった、ということもある。Contarini症候群は、両側胸水で左右の原因が異なる病態である。肺炎随伴性胸水に伴う左心不全胸水ケースが多いが、高齢者では時に膿胸と悪性胸水の組み合わせなどがみられ、Hickamの格言の例題とも言える。

胸水性疾患の症状は病態生理で異なるが、咳、痰、発熱、胸膜痛、呼吸困難がある。身体所見には、頻呼吸、頻脈、体温上昇、打診での濁音、tactile fremitusの低下、呼吸音の低下(または消失)などがある。auscultatory percussionも有用。肺炎随伴性胸水であれば、それによるクラックルや、気管支呼吸音などがある。

胸部単純X線写真の正面と側面像では少量のように思われた胸水が、その後膿胸と判明したケースもある。単純X線写真での胸水量の評価では患側を下にした側臥位での撮影がよい。1cm以上あれば穿刺を考慮する。最近は、外来診察室でのエコーも役に立つ。エコーでは穿刺部位もその場でマーキングできる。

膿胸や肺炎随伴性胸水、結核などの感染性胸水を疑う場合には、肉眼所見に加えて、胸水のpHとグラム染色、抗酸菌染色、細菌培養、抗酸菌培養、Adenosine Deaminase(ADA、胸水でのカットオフ値は40IU/L)を提出する。嫌気臭のある胸水は嫌気性菌感染症を考える。胸水のpHは、血液ガス分析機器で測定する。国内の検査会社で通常施行されている胸水結核菌PCR検査は、感度は十分ではないので否定には使えない。ADA値が高く結核が否定できない場合や悪性疾患も否定できない場合は専門病院へ紹介して胸膜生検も考慮するとよい。

【文献】

1)Ferguson AD, et al:QJM. 1996;89(4):285-9.

徳田安春(群星沖縄臨床研修センターセンター長・臨床疫学)[診断推論]

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