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【識者の眼】「国内初の内密出産、日本における課題とは」重見大介

No.5111 (2022年04月09日発行) P.58

重見大介 (株式会社Kids Public、産婦人科オンライン代表)

登録日: 2022-03-23

最終更新日: 2022-03-23

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2021年12月、国内初の「内密出産」が行われたと報道され大きな話題となった。今回はある医療機関が独自に対応を決めたことになるが、他者に妊娠を知られずに出産することに関して、国内における法制度は十分に整備されているとは言えず、課題は山積している。

まず事実として、思いがけない妊娠をした女性の中には、経済的困窮、性犯罪、健康上の問題、家族やパートナーとの関係性などの様々な理由から、周囲に妊娠を知られたくない、といったケースが存在する。彼女たちは、周囲に妊娠を知られないために家族に妊娠の事実を伝えず、妊娠・出産・養育に関わる行政の支援・制度を避けることが多く、結果的に母子の健康を害するリスク(産科合併症や流産による多量出血など)や遺棄・虐待のリスクが高くなりやすい。こうした事態を防止するためにも、思いがけず妊娠をした女性すべてに届く支援が必要とされており、これは当然日本だけの問題ではなく、世界各国で様々な歴史的経緯をたどってきた。

海外に目を向けてみると、フランスやドイツなどは匿名で出産できる法制度が整備されており、米国には出産後に匿名で子どもを引き渡すことのできる法制度が存在する。英国は、女性への支援を通して匿名での出産や引き渡しを抑制することに重点を置いていると考えられる。一方で、日本では、様々な事情で生みの親と暮らすことができずに、社会的養護を必要とする子どもの8割が乳児院や児童養護施設などの施設で暮らしている1)。諸外国に比べ、里親家庭で暮らす子どもは圧倒的に少なく、子どもを家庭で暮らせるようにする取り組みの必要性が以前から指摘されている。

効果的な避妊手段の拡充や普及、包括的性教育の推進も日本社会に不可欠だが、現実には決して少なくない数の女性が、様々な困難な事情を抱え、誰にも知られずに出産したい、という思いに至っている。しかしながら、日本では匿名で出産する体制も、安心して身元を明かして出産できるようにするためのサポートも、生まれた子どもを安全に養育し権利を守るための制度も、いまだに不十分であるのが実情だろう。今回の事例をきっかけに、こうした社会的課題について広く議論が深まり、早急な状況改善が進むことを期待したい。

【文献】

1)厚生労働省子ども家庭局家庭福祉課. 里親制度(資料集)(2021年10月).

重見大介(株式会社Kids Public、産婦人科オンライン代表)[内密出産]

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