株式会社日本医事新報社 株式会社日本医事新報社

CLOSE

【識者の眼】「総合診療医が行うHPVワクチンの説明」谷口 恭

No.5109 (2022年03月26日発行) P.58

谷口 恭 (太融寺町谷口医院院長)

登録日: 2022-02-22

最終更新日: 2022-02-22

  • このエントリーをはてなブックマークに追加

「識者」と呼ばれるには力不足だが、都市の一角に位置した診療所の総合診療医のホンネを述べたい。今回が全12回の第2回目。

2013年6月から続いていたHPVワクチンに対する「積極的勧奨の差し控え」がついに解消されることが決まった。このワクチンについて僕が文章を書くと、必ずと言っていいほど炎上したりクレームが来たりする。ワクチン肯定派からも否定派からも批判されるのが興味深い。

「積極的勧奨の差し控え」が発信されて以降、ワクチン対象となる小6〜高1までの女子生徒(の保護者)数百人から相談を受けている。結果は、ほとんどが「見合わせる」となり、これは肯定派の医師から批判される。一方、ワクチン公費対象年齢よりも上の世代の“男女”から相談を受けたときは、ほとんどが「受ける」となる。4価ワクチンが男性に認可されたのは2020年12月だが、当院では女性に対して認可された2011年8月の時点で男性への接種を開始した。リスクを理解した希望者に対し断る理由がないからだ。希望する50代の男女にも接種することが多い。こういう話をするとワクチン否定派からはたいてい呆れられる。

HPVワクチン(2価を除く)が子宮頸がんと尖圭コンジローマの予防に有効であり、さらには肛門癌、陰茎癌、中咽頭癌などにも期待できるのは明らかだが、これには「公衆衛生学的に」という条件がつく。公衆衛生学者、感染症専門医、あるいは婦人科専門医が市民に向けて「接種しましょう」と訴えるのが当然なのは、国民全体での罹患率・死亡率を下げることをミッションとしているからだ。

だが、我々総合診療医の視点は異なる。全体ではなく目の前の患者がすべてだからだ。相談に訪れた中2の女子生徒が「私は大学入学までパートナーはつくりません。HPVワクチンは高3の夏に打ちます」と言えばそれを肯定すべきだ。「あなたの決心は変わりますから」あるいは「性暴力の被害に遭うかもしれませんからすぐに打ちなさい」などと言うべきではない。

それに、性行為で感染する感染症のワクチンとしてはHPVよりもHBVを優先すべきなのは自明だろう。当院ではHPVワクチンの希望者にはほぼ全例HBVも同時接種している。行政が取るべきワクチン政策はHPVにHBVを加えた幅広い年齢の男女に対する金銭的援助だ。

ちなみに、当院でのHPVワクチン接種者数は「積極的勧奨の差し控え」にまったく影響を受けていない。

谷口 恭(太融寺町谷口医院院長)[HPVワクチン]

ご意見・ご感想はこちらより

関連記事・論文

もっと見る

関連物件情報

もっと見る

page top