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【識者の眼】「2009年の新型インフルエンザH1N1の全数報告をやめた日」和田耕治

No.5104 (2022年02月19日発行) P.57

和田耕治 (国際医療福祉大学医学部公衆衛生学教授)

登録日: 2022-02-07

最終更新日: 2022-02-07

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新型コロナの患者数の把握を今後どうするのか。全数を把握する目的は、流行の動向を確認するサーベイランスと、感染症法での措置を行うためである。対策を強めることよりも、やめるまたは変更することのほうが難しいことが多い。

先例から学ぶということで、2009年の新型インフルエンザH1N1の時にどうであったのか、文献1)を元に読み解く。

2009年5月16日に国内患者初発が確認され、7月24日に全数把握が中止されている。このときまで5083人の確定例があったが、それでも様々な混乱があった。今回、ここまでカウントできるようになったのは、この11年間の進歩とも言えるだろうか。

この時はインフルエンザであったため、元々の定点のサーベイランスなどが継続されていた。谷口清州先生は当時について「インフルエンザの定点サーベイランスは、既に20年以上の歴史と積み重ねがあり、新型インフルエンザ(A/H1N1)の流行初期の混乱状況の最中でも、また流行が極期に達している時期でも、各医療機関から保健所、地方感染症情報センター、国立感染症研究所感染症情報センターへの患者情報への流れは滞ることなく伝達されていた。危機発生時には平常時からの積み重ねがいかに重要かを示しているものと思われる」と指摘している。今後、新型コロナの把握に定点を活用するとしたら、そのための準備とベースラインの把握が必要になるだろう。

2009年7月24日からは大規模な集団発生に対してのクラスターサーベイランスとインフルエンザ入院サーベイランスに重きが置かれるようになった。クラスターサーベイランスは翌年2010年3月29日まで続けられたが、適宜、届出の規模の緩和や保育所の除外などが行われた。入院サーベイランスも10年3月29日に、重症サーベイランスへ移行となった。

入院サーベイランスは通知により緊急的に作成された。谷口先生は、「入院サーベイランスにおける入院例、重症例、ICU入室例の症例定義が明確ではなかったためと考えられるが、どのレベルのものが報告されていたのか不明確で、本当に重症化して入院したのか、社会的適応で入院したのかが判然としていない症例もあったため、結果的に厚生労働省では、再度医療機関に問い合わせを行うことを余儀なくされたよう」という教訓を残されている。

新型コロナの全数把握を今後どうするかの議論において思い出しておきたい。

【文献】

1)宮村達男, 監, 和田耕治, 編:新型インフルエンザ(A/H1N1)わが国における対応と今後の課題. 第7章サーベイランス. 2011. (無料公開中)

   https://www.chuohoki.co.jp/topics/info/2001291648.html

和田耕治(国際医療福祉大学医学部公衆衛生学教授)[新型コロナウイルス感染症]

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