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特集:シックデイを乗り切るための対応と患者指導

No.5086 (2021年10月16日発行) P.18

三澤美和 (大阪医科薬科大学病院総合診療科医長)

登録日: 2021-10-15

最終更新日: 2021-10-13

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市中病院での初期研修~後期研修を経て,家庭医療専門医と糖尿病専門医の両方を生かしながら大学病院や一般病院での総合診療を実践している。卒前卒後の医学教育,家庭医療の教育にも力を注いでいる。2016年春から現職。

1 シックデイは緊急事態:命を守るための自分教育,患者教育

急な体調不良や感染症,災害などはいつでも誰にでも起こること。

2 基本的なシックデイルールと患者教育のコツ

Insulin treatment should never be stopped!

3 シックデイ時の薬剤ルール

まずはシックデイルールを医師とスタッフが理解し,施設全体で教育できる仕組みをめざそう。

4 シックデイにおける低血糖対応

5 医療機関を受診しなければならない状況

予定外の病院受診に必要なもののリストを準備しよう。

6 特定の状況におけるシックデイ

シックデイを理解し,患者の命を守ろう。

1 シックデイとは何か?

糖尿病患者が発熱,下痢・嘔吐,食欲不振などで食事がとれないときや,腰痛・外傷などで体調を崩した状態をシックデイと呼ぶ1)。身体的・精神的にストレスがかかると,カテコールアミンやコルチゾールなどインスリン拮抗ホルモンの分泌により高血糖をきたしたり,反対に摂食不足による重篤な低血糖を起こすことがあり,患者および医療者が適切に対処できないと糖尿病性ケトアシドーシス(diabetic ketoacidosis:DKA)・高血糖高浸透圧症候群(hyperosmolar hyperglycemic syndrome:HHS)のような高血糖緊急症につながる。特に1型糖尿病患者のシックデイとDKAは関連が深く,適切に患者教育をしていてもなお,発症例は多い。

DKAは1型糖尿病患者だけのものではなく,すべてのタイプの糖尿病,特に高齢で肥満度が高く2型糖尿病の家族歴がある2型糖尿病患者に起こりうる2)。米国では年間9000万ドルがDKAの治療に使われているとされており,10%でもDKA患者を減らすことができれば1000万ドルの医療費削減につながると言われている3)

最近ではシックデイ時に家庭での頻回の血糖測定およびケトン測定,その結果に合わせたタイムリーなインスリン補充,週に1回以上のヘルスケアプロバイダーへの連絡などを組み合わせた,‘Back to the future Approach’が1型糖尿病のDKA発症予防に有効とされ,国際小児思春期糖尿病学会(The International Society for Pediatric and Adolescent Diabetes:ISPAD)からもガイドラインが出ている4)

わが国でも今回のCOVID-19パンデミックをきっかけに糖尿病患者に対する遠隔診療(オンライン診療)が多く実施された。コロナ禍で今までになかったオンライン診療の実践が進んだことで,少し工夫すれば医師および多職種のヘルスケアプロバイダーが患者を今までより頻回に,より効率的に見守ることができる。シックデイにもそのような仕組みが活用されていくとなおよいだろう。

シックデイの多くは日常的な感染症が原因となるが,それ以外にもステロイド投与下,手術や外傷,がん患者などでも起こりうる。これらについての対応を適切に知り,患者教育ができることは患者の命を救うことになる。

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