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【識者の眼】「AYA世代のがん患者在宅療養支援の自治体事業」川越正平

No.5087 (2021年10月23日発行) P.61

川越正平 (あおぞら診療所院長)

登録日: 2021-10-08

最終更新日: 2021-10-08

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AYA(Adolescent and Young Adult、思春期・40歳未満の若年成人)世代のがんによる全国の死亡数は年間約2500名である。介護保険の被保険者ではないため、在宅療養支援の体制は乏しい。公表情報を調査したところ、2021年2月末日時点で21の地域で独自の自治体事業が実施されていた(市13、県3、県・市町村共同5)。福祉用具貸与・訪問入浴・訪問介護・福祉用具購入が過半数の地域の施策に含まれていた。医師意見書料の補助は2地域(鹿児島市・さいたま市)、ケアマネジメントを給付対象としているのは1地域(甲府市)、おむつ代を助成する地域はなかった。一方、通院に係るタクシー運賃等移送費の補助が2地域(鹿児島市・浦安市)で設定されていた。助成額はサービス利用料の9割とする地域が大半で、その上限額は5万〜8万円/月だった。償還払いが過半数で、委任払い方式を採用しているのは8地域にとどまっていた。

人口約50万の当市(松戸市)に、2016〜2020年に居住していたAYA世代がん患者在宅療養支援の実績について医師会と訪問看護連絡協議会を対象に調査した。死亡統計上、同期間の20〜39歳のがんによる死亡は49名だったが、在宅療養支援の実績を把握しえたのは10名だった。年齢中央値36.0歳、7名が女性、在宅療養期間の中央値は63.0日で、8名が自宅で死亡していた。介護者が複数の世帯が5名、配偶者のみが3名、親のみが2名、5名には未成年の子がいた(ダブルケア)。2名が身体障害者手帳を取得していた(1名は申請中に死亡)。6名はがん治療等のため定期通院し、うち2名は介護タクシーを自費で利用していた。6名は特殊寝台や車椅子等を貸与し、3名は自費で購入していた。8名は入浴介助や清拭等清潔ケアを家族や看護師が行い、2名は訪問入浴を自費で利用していた。2名は訪問看護の回数を減らし、1名は訪問薬剤管理指導の利用を手控えていた。このように、介護面、経済面で大きな負担を抱えている実態が浮き彫りとなった。

調査を踏まえ、当市において年2回開催されている首長との懇話会(医師会からの政策提案の場)で、AYA世代がん患者在宅療養支援事業化を提案したところ、必要な施策だと認められ、実現の運びとなった。想定される対象者数は少数で、限られた期間支援することで対応できる。人口10万人あたり年間20万〜40万円程度の予算で、あらゆる世代の住民が「病んでも自宅で暮らし続ける」ことへの支援は、地域共生社会実現にとって、小さくても意味ある一歩となるだろう。

川越正平(あおぞら診療所院長)[AYA世代がん患者][在宅療養支援][自治体事業][医師会からの政策提案]

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