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【識者の眼】「非感染性・慢性疾患の疫学者が語る『新型コロナ第5波と2つのワクチン効果』」鈴木貞夫

No.5087 (2021年10月23日発行) P.57

鈴木貞夫 (名古屋市立大学大学院医学研究科公衆衛生学分野教授)

登録日: 2021-10-05

最終更新日: 2021-10-05

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9月末で緊急事態宣言がついに終わりを迎えた。第5波はワクチンの効果が初めて試される波であった。公開データから第5波におけるワクチンの効果を探ってみる。1つは、年代別の新規感染者のデータから推移を観察して比較する方法、もう1つは、死亡数や致死率を比較する方法である。前者は感染や発症への効果、後者は重症化、特に死亡の防止を重点的に評価するものと考えられる。

年齢別の新規感染集計は、多くの都府県が公開している個票データ1)を利用した。検査陽性者個人の通番、公開年月日、年代、性のデータから、自治体ごとの性別・年代別の新規感染の推移が観察できる。感染者が多かった沖縄県、東京都、大阪府、愛知県のデータを解析した。

沖縄県、東京都では第5波ですべての年代とも感染者が多かったが、大阪府と愛知県では、高齢者では第5波のほうが少なかった。波の最大感染者数同士の比(第5波が第4波の何倍の感染があったか)を年代ごとに取ると、すべての自治体で、年齢が高いほど数値が低くなる傾向がみられ、特に、50代と60代で大きな差が見られた。たとえば東京都では、順に4.71倍、2.86倍、大阪府では、1.60倍、0.82倍であった。4都府県すべてで、50代は60代に比べ、第5波の感染のインパクトがおおむね2倍だったことを示す。ワクチンがなければ、高齢者でずっと多くの感染者が出ていたことは確実である。

一方、死亡に関しての最大値2)は、第4波では人口100万対0.90(新規感染は51.3)であったのに対し、第5波では0.52(同183.1)であった。死亡数は第4波のほうが1.74倍高く、感染者数を考慮する(解釈としては致死率に相当する)と6.23倍高い。ワクチンの死亡抑制効果と思われるが、第5波の感染者に若年者が多いことは考慮すべきである。

日本のコロナ死亡の性年齢別データ3)も公開されている。第4波までの死亡率は、年齢とともに右上がりであったが、第5波では、男性の50代の死亡率が60代の死亡率とほぼ重なっている。女性では重なるほどの増加はないが、50代と60代の差は小さくなっている。ここからも、ワクチンの死亡抑制効果は明らかと思われる。

第5波はデルタ株の猛威もあり、感染者は多かったが、ワクチンを接種した高齢者で、新規感染と死亡が抑えられたことが示された。波の収束したこの機会に、若年者のワクチン接種率を上げ、次の波に備えたい。

【文献】

1)東京都_新型コロナウイルス陽性患者発表詳細, 他.

 [https://stopcovid19.metro.tokyo.lg.jp/data/130001_tokyo_covid19_patients.csv] 

2)Our World in Data:country profiles.

   [https://ourworldindata.org/coronavirus#coronavirus-country-profiles] 

3)国立社会保障・人口問題研究所:感染者・死亡者数の推移.

   [http://www.ipss.go.jp/projects/j/Choju/covid19/index.asp] 

鈴木貞夫(名古屋市立大学大学院医学研究科公衆衛生学分野教授)[新型コロナウイルス感染症]

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