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【識者の眼】「胃がん予防は新しい時代に突入した」浅香正博

No.5083 (2021年09月25日発行) P.64

浅香正博 (北海道医療大学学長)

登録日: 2021-08-31

最終更新日: 2021-08-31

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2013年2月、世界で初めて、ピロリ菌感染で生じる慢性胃炎への除菌療法に保険が適用された。日本ヘリコバクター学会、日本消化器病学会、日本消化器内視鏡学会の3学会が中心となって保険認可に尽力したことが大きかったと思われる。その後、慢性胃炎患者の除菌を推進するために各学会が会員に積極的に働きかけてくれたため、ピロリ菌の除菌治療を受ける患者は急速に増えていった。保険の通った年には除菌数は150万件に達し、それ以後も持続し、8年間で約1000万人が除菌されている。その結果、40年にわたって毎年約5万人と変わりなかった胃がん死亡者数は、2014年からついに減少に転じた。2020年には約4.2万人と、保険適用前に比して約15%もの減少を示した。そのため8年間で約3.7万人の胃がんで亡くなる命を救っていることになる。

このように日本で胃がんの死亡者が減少してきたのは、ピロリ菌除菌の直接効果というよりは、保険を使用するために内視鏡検査が義務付けられたことによるものと考えられる。除菌による直接効果であるならば、罹患者数がまず減少し、それから死亡者数が減少してくるはずである。然るに、死亡者数が先に減少して罹患者数は変わりがないために、除菌の直接効果とはいえない。それゆえ内視鏡検査を受ける人が飛躍的に増加したため、予後のよい早期胃がんが発見される機会が急速に増加したためと考えるのが妥当である。医療保険を利用した胃がんの内視鏡検診と呼ぶべき状況が効果を発揮しているのは間違いない。

だが、現状は楽観視できない。2017年頃からピロリ菌の除菌治療を受ける患者数は徐々に減り始めている。ピロリ菌に関心のある人の除菌が、ほぼ終了に近づいてきたことが理由の一つと思われる。ピロリ菌に感染していても、自覚症状はほとんどみられない。したがって、症状がなくても一度は医療機関を受診し、検査でピロリ菌感染の有無を確かめることがどうしても必要である。感染者は全員が慢性胃炎という病気を持っており、除菌治療の対象になることを一般市民に理解してもらう必要がある。

原因のわかっているがんは原因をとり除くことによって予防が可能になるが、胃がんで亡くなる人が今なお後を絶たないのも現状である。わが国は胃がんで亡くなる必要がない時代に入ってきたことを一人でも多くの方に知ってもらうために、何が最も有効なのか考え続けねばならない。

浅香正博(北海道医療大学学長)[除菌療法]

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