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腸管出血性大腸菌感染症[私の治療]

No.5077 (2021年08月14日発行) P.43

佐原利典 (東京都保健医療公社荏原病院感染症内科)

登録日: 2021-08-13

最終更新日: 2021-08-10

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  • ベロ毒素(志賀毒素)を産生する腸管出血性大腸菌(enterohemorrhagic Escherichia coli:EHEC)を起因菌とし,強い腹痛,下痢,血便などの症状を特徴とする感染症である。有症状者のうち数パーセントで血小板減少,溶血性貧血,急性腎障害などを認める溶血性尿毒症症候群(hemolytic uremic syndrome:HUS)に至り,特に小児や高齢者では痙攣,昏睡,脳症を合併し死に至る場合もある。感染症法の3類感染症に指定されており,症状の有無にかかわらず診断後は直ちに最寄りの保健所へ届け出る義務がある。年間届け出数は4000例ほどである。
    O血清群の内訳は最も有名なO157が6割ほどで最多,ついでO26が2割ほどを占めている。散発的な集団発生の報告もあるほか,調理業務従事者の検便で判明する無症状病原体保有者の存在も,公衆衛生の観点から重要である。

    ▶診断のポイント

    細菌性腸炎としての症状である下痢から始まることが多いが,比較的強い腹痛と鮮血様の血便を認めるのが特徴である。成人の場合,症状出現初期では他疾患との鑑別のため造影CTで炎症像を確認することもあるが,HUSによる急性腎障害のリスクもあるためEHEC感染が鑑別に挙がる場合は,造影剤の使用は慎重を要する。便培養でのEHEC分離,ベロ毒素(志賀毒素)産生能の確認により診断となるが,毒素産生がない場合や無症状病原体保有者も多いことに注意が必要である。

    ▶私の治療方針・処方の組み立て方

    対症療法が中心となる。細菌性腸炎として起因菌が確定していない時点では,鑑別となる病原体にカンピロバクターやサルモネラなどを挙げ,重症と判断した場合はマクロライド系抗菌薬投与を検討する。診断が確定している場合,複数の研究で抗菌薬使用がHUSの発症率を高めると報告されており,世界的には抗菌薬投与はデメリットのほうが大きいという見解が優勢である。日本では,集団感染時にホスホマイシン使用によるHUS発症率の低下が報告されているが,現時点で抗菌薬使用に対する妥当性が高いとは言いにくいため,抗菌薬使用は避けている。

    等張性輸液を十分行い,血小板数や血清クレアチニン,炎症マーカー値をフォローしながらHUSへの進行に備える。等張性輸液負荷による心機能増悪に注意を要する高齢者や小児の場合は,輸液量の調整が時に難しいが,尿量を正確に計測し血管内脱水に至らないよう十分な輸液量を確保し経過観察する。

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