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【緊急寄稿】デルタ株は極めて感染力が強く重症化しやすい─米国CDCの見解(菅谷憲夫)

No.5078 (2021年08月21日発行) P.28

菅谷憲夫 (神奈川県警友会けいゆう病院小児科・感染制御,慶應義塾大学医学部客員教授)

登録日: 2021-08-06

最終更新日: 2021-08-06

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最近,米国疾病予防管理センター(CDC)が新型コロナウイルス(SARS-CoV-2),特にデルタ株の危険性をまとめたスライドファイルの内容がワシントンポスト紙に掲載され,大きな話題となった1)。重要な内容であるが,わが国では十分に知られていないので,以下に紹介する。一部の引用については,実際のスライドを参照していただきたい。

デルタ株は新しいウイルスと考えるべき

CDCは,デルタ株について「Delta is different from previous strains」(デルタ株は従来株とは異なる)としている。その最大の理由は感染力である。基本再生産数(Ro)は,従来株は2前後であるが,デルタ株では8とされ,水痘なみとされた(図1)。水痘は,ムンプス,麻疹と並んで,極めて感染力の強い感染症で,ワクチン普及前の水痘を知る小児科医であれば,深刻さは理解できると思う。図1では,インフルエンザの4倍の感染力があることが示された。

日本では,デルタ株の感染力を従来株に比べて多少強い程度に推定したシミュレーションも流布しているが,臨床現場の実感からはかけ離れている。デルタ株は,今までの経験,常識は通用しない,新しいウイルスと考えるべきである。気道のウイルス量は,従来株に比べて1000倍以上多く,ウイルス排泄(viral shedding)期間も,従来株が13日である一方,デルタ株は18日も続く。

デルタ株は従来株より入院・死亡率が約2倍

デルタ株の感染では,アルファなど従来株と比べて,入院は2.2倍,ICU収容は3.9倍,死亡は1.9倍増加することが,カナダから報告された。CDCは,ほぼ同様の内容のシンガポールとスコットランドの報告も引用した。これらの報告は,最近,日本でよく聞く,「患者数が増えても,重症者数が増えないから新型コロナウイルス感染症(COVID-19)を恐れる必要はない」という意見を真っ向から否定するデータである。

ワクチンを2回接種しても発症して周囲に感染を広げる

COVID-19のmRNAワクチン(ファイザー,モデルナ)は,95%の非常に高い発病防止効果があるとされてきたが,デルタ株に対しては,60%台の効果に低下する。最近,日本でも2回接種した医療従事者の感染が頻繁に報告され,ワクチン接種をしても感染,発病することが明らかになった。問題は,ワクチン接種者が発症した場合,非接種の発症者と同等の強い感染力を持つ点にある2)。幸いなことに,依然として90%の重症化防止効果はあるので,mRNAワクチンの接種は強く勧奨すべきである。

「The war has changed」,集団免疫は期待できない

デルタ株出現以前は,ワクチン接種を進めることにより,COVID-19は集団免疫でコントロール可能と考えられてきたが,現実にはワクチンを2回接種しても発症し(breakthrough infection),発症した接種者が周囲に感染を広げることがわかった2)。CDCはこれを,「The war has changed」と表現し,ワクチン接種による集団免疫は困難なので,ワクチン接種は進めるが,breakthrough infectionを周知すること,マスク,social distancingなど,いわゆるnon-pharmaceutical intervention(NPI,公衆衛生的対策)の重要性を,今まで以上に強調するとした。結局,ワクチンの効果は,個人の重症化防止効果だけが残った。

デルタ株の日本への影響

デルタ株は,首都圏では既に90%を占め,残りがアルファ株である。全てのデルタ株感染者は,ある意味,スーパースプレッダーであるので,感染者数がさらに増加することは間違いない。Roの8の深刻さが十分に認識されていないのが,懸念されるところである(図1)。季節性インフルエンザは当然として,天然痘よりも,1918年のスペインかぜよりも,感染力が強いのがデルタ株である。しかも,入院率,死亡率は,従来株の約2倍あると報告されている。欧米に比べて,日本の低いワクチン接種率では,重症者が急増することが懸念される。

病院は中等症の受け入れ

政府が8月2日に発表した「感染者が急増している地域の入院は重症患者と重症化リスクが高い患者のみ」という方針は,現場を知らない官僚の政策に過ぎない。批判を受けて5日に「(入院は)中等症患者で,酸素投与が必要な者,必要でなくても重症化リスクがある者」などと修正されたが,医療関係者はワクチン接種が完了しているので,中等症患者は可能な限り病院が引き受ける体制を取るべきである。どこの病院でも,酸素投与,点滴,呼吸,心拍のモニターまでは,つまり中等症の管理は可能と思われる。

全国の臨床家がCOVID-19の治療に参加すべき時

COVID-19治療薬として7月に特例承認された「抗体カクテル療法」は,呼吸困難が出る前の早期の軽症患者に使用すれば,重症化防止に高い有効率が報告されている。可能であれば,全国の診療所で発熱患者にCOVID-19抗原検査を実施し,陽性例は,「抗体カクテル療法」でただちに治療すべきである。あるいは,有効性を示唆する論文が出ているファビピラビル(アビガン)を至急に承認すべきである。インフルエンザと同じように,全国の診療所での早期診療体制の確立が急務で,さもなければ,重症化しやすいデルタ株の流行により,ワクチン未接種の多くの健常な青壮年の命が失われることになる。

【文献】

1) The Washington Post:Internal CDC document on breakthrough infections 2021
  [https://www.washingtonpost.com/context/cdc-breakthrough-infections/94390e3a-5e45-44a5-ac40-2744e4e25f2e/?_=1]

2) Brown CM, et al:MMWR. July 30, 2021.
  [https://www.cdc.gov/mmwr/volumes/70/wr/mm7031e2.htm]

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