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特集:糖尿病緊急症─対応のためのいろは

No.5075 (2021年07月31日発行) P.18

稲葉達郎 (三井記念病院糖尿病代謝内科)

森 保道 (虎の門病院内分泌代謝科部長)

登録日: 2021-07-30

最終更新日: 2021-07-28

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稲葉達郎
2016年,北里大学医学部医学科卒業。16年~20年三井記念病院勤務。20年~21年虎の門病院勤務。21年より,再び三井記念病院に。

1 高血糖緊急症って?

糖尿病緊急症とは,大きくわけて,高血糖によるものと低血糖によるものの2つに分類される。今回は高血糖緊急症と低血糖緊急症にわけて概説する。

まず,高血糖緊急症から述べたい。
高血糖緊急症はすべての糖尿病患者で発症する可能性があり,治療を誤ると生命にも関わる重篤な状態である。
高血糖緊急症は大きくわけて,(1)糖尿病性ケトアシドーシス(diabetic ketoacidosis:DKA),(2)高浸透圧高血糖状態(hyperosmolar hyperglycemic state:HHS)に分類される。いずれも原因はインスリンの作用不足で,治療は十分な補液とインスリンによる治療となる。

後者は従来,非ケトン性高浸透圧昏睡(hyperosmolar non-ketotic diabetic coma:HONK)と呼ばれていたもので,軽度のケトーシスをきたし得ることと,必ずしも昏睡状態とならないことから,近年はHHSと称するようになった。(1)と(2)はオーバーラップすることも多く,明確に区別することは難しいことも多い1)

著明な高血糖を合併せずにDKAを生じる正常血糖糖尿病性ケトアシドーシスが,糖質摂取がきわめて制限された場合やSGLT2阻害薬の使用時に,近年多数報告されている。心不全治療薬としてSGLT2阻害薬が非糖尿病症例にも処方されるケースがあり,血糖が必ずしも高値とならないDKA症例がいることに注意が必要である2)

2 どういったときに高血糖緊急症を疑うの?

患者が「私,高血糖緊急症です」と申告し来院してくれることはなく,「検診で血糖値が高いと言われてます」と教えてくれる程度である。DKAは1型糖尿病の初発症状であることが多く,その際は血糖値が高いことを自覚していない症例がほとんどである。高血糖緊急症で来院する患者の臨床症状は様々で,悪心,腹痛などの消化器症状から意識障害,ショックまで幅広い3)。DKAを誤って胃腸炎と診断して帰宅させることは,致命的な治療の遅れにつながる。大切なことは,様々な症状をきたすということを知っておくことである。

DKAでは口渇・多飲・多尿の他に強い倦怠感と体重減少を認めることが多く,倦怠感や体重減少を伴って来院した症例では,高血糖と尿中ケトン陽性には注意が必要である。また原因不明の代謝性アシドーシスをみたら,高血糖の有無にかかわらず常にDKAの可能性を考慮する。HHSでは頭痛や振戦などの神経学的所見を認めることが多く,そのような訴えで来院した患者にも血糖値を測定することが大切である。

3 高血糖をみたときは?

高血糖を認めたとき,「早めに専門の医療機関を受診しましょう」なのか,「今すぐ専門の医療機関を受診しましょう」なのかは判断が難しいことが多い。POCT(point of care testing)で血糖値を測定できるが,血液ガス分析器や血中ケトン体の簡易測定器を置いていない医療機関では,正確な病状評価に限界がある。では,どういったときに緊急性があると考えられるのか。

全身状態の評価が最も重要となる。まずは意識状態。患者の反応が鈍い場合や朦朧としている際は直ちに精査が必要である。DKAやHHSが疑われる強い倦怠感や呼吸困難,脱水状態を認める場合も,速やかに初期治療を開始し専門の医療機関へコンサルトして対応を相談する。

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