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【識者の眼】「It’s a Fantastic World」神野正博

No.5060 (2021年04月17日発行) P.61

神野正博 (社会医療法人財団董仙会恵寿総合病院理事長)

登録日: 2021-03-31

最終更新日: 2021-03-31

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最近は、以前にも増して公職が増えた。地元の団体や全国組織での委員会やタスクフォース、Webセミナーの講演、Web学会のパネリストのほか、「ちょっとご意見を」という会など、ホイホイ気楽に引き受けてしまう。さらに、時差こそ解消できないが、これまで北米、南米、台湾、韓国、オセアニア、東南アジア、インド、欧州の方々とのLiveのWeb会議、またWeb講演をこなした。

以前ならば、1日の中で14:00〜16:00、16:00〜18:00、18:00〜20:00などといった予定では、東京と地元移動はもとより、都内であろうが、地元内であろうが、数秒での移動は不可能だ。前か後ろの会に不義理をして移動時間を捻出せねばならない事案だろう。

コロナ禍を通して、お尻に根が生えたようにWebの前で、オンラインの設定を変えるだけで瞬間移動が可能となった。まさに、ドラえもんの夢物語だった『どこでもドア』の世界が手に入った。引き籠りながら、広い世界へ飛躍する。

都内〜地元間の移動は、飛行機や新幹線利用などで最短でも3時間半、往復で7時間以上かかる。この時間が消えた。おかげで、Zoom筋トレ、ヨガ、太極拳などをすることができる人並みの時間的余裕が生まれ、おまけに会食、宴会なしということですこぶる体調がいい。

まさに、Fantastic Worldを手に入れた。本欄で専門家の皆様が危惧する変異株の流行を睨みつつ、一方でワクチンは流石に年内には相当数の国民に行き渡ることだろうと思う。

人類がコロナ禍に打ち勝って欲しいと思いつつも、その時にこのFantastic Worldはどうなっているのか。元に戻ることを考えるとぞっとする。気楽にホイホイのツケがどう回ってくるのだろうか。

ここにきて「ワクチンを打ったら次は会おうよ」という声を聴くたびに後ずさりする。そのために医療者が優先接種の対象になったわけではないはずだ。移動時間が短い都会在住者と、もともと移動時間が長かった地方在住者。会うという感覚に大きな乖離があるように思う。このめくるめくFantastic Worldから出たくないのは私だけだろうか。

神野正博(社会医療法人財団董仙会恵寿総合病院理事長)[新型コロナウイルス感染症]

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