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【識者の眼】「たかが歯磨き、されど歯磨き!」槻木恵一

No.5059 (2021年04月10日発行) P.64

槻木恵一 (神奈川歯科大学副学長)

登録日: 2021-03-25

最終更新日: 2021-03-25

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神社にお参りをするとき参拝者が身を清めるため水を使用するが、その場所の事を手水舎(他の名称もある)という。この手水舎は、読んで字のごとく手を水で清める場所なわけだが、手だけでなく口も濯ぐ。この様な風習は日本に限ったことでなく、イスラム教でもお祈りの前には、口を濯ぐし、ミスワクという樹木を用いて歯磨きをする習慣があるという。恐らく口は汚いところという観念が世界的に存在し、様々な宗教の中に取り込まれていったのかもしれない。

この口は汚いという事象は、決して間違いではない。例えば、口腔には便より細菌数が多く存在するといわれており、口腔細菌はう蝕と歯周病を引き起こす原因でもある。特に歯周病は、糖尿病などの全身疾患との関連が注目されており、全身に影響を与える病変である。

2016年に公表された歯科疾患実態調査では、1969年に毎日3回以上歯を磨く人は1.8%であるが、16年には27.3%まで増加している。69年はう蝕になりたくないから歯を磨く時代であるが、現在は、う蝕予防だけでなく歯周病予防も念頭に置き、糖尿病などの全身疾患への悪影響をできるだけ避けるために行うことが推奨されている。また、毎日磨く人も95.3%と非常に多く、口を綺麗にしておくことは健康に重要であることが、国民に認識されてきたと考えられる。さらに、周術期口腔機能管理の重要性の理解も大きく進んでいる。

最近の研究で、新型コロナウイルスとその受容体であるACE2の結合をラウリル酸ナトリウムなど歯磨剤成分の一部が抑制するという実験結果が、査読前論文として公表された1)。新しい時代にウイルス感染を意識した歯磨きという観点が追加されたのである。たかが歯磨きだが、されど歯磨きであり、古来の風習にも様々な科学的意義があり興味深い。

【文献】

1)Makino RT, et al:bioRxiv. 2021. doi:https://doi.org/10.1101/2021.03.19.435740

槻木恵一(神奈川歯科大学副学長)[科学的意義]

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