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【識者の眼】「人件費を削りますか?」武久洋三

No.5059 (2021年04月10日発行) P.63

武久洋三 (医療法人平成博愛会博愛記念病院理事長)

登録日: 2021-03-25

最終更新日: 2021-03-25

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資本主義社会では資本家と労働者という立場に大別される。労働者サイドは革新的で資本家サイドは保守的と思われている。数でいえば労働者が圧倒的に多いのに実際の政治は保守派の政党により行われている。要するに労働者が革新的な政党をあまり信用していないということか。しかし企業は労働者がいなければ成り立たない。

病院経営者という立場にいる私であるが、優秀な職員がいなければ何にもできない。しかも、職員のほとんどは特殊な技術を持った専門職である。とてもじゃないが、「私が資本家で彼等は労働者だ」などという感覚は全くない。彼等は仲間であり、大切な人である。優秀な人はもちろんかわいいが、出来の良くない人も同じくかわいい。

コロナ禍で経営が傾くと、すぐボーナスを支給しないという選択をする大病院もあるし、統計では半分近くの病院が2020年冬の賞与を減額しているという。職員に何の落ち度もないのに収入を減らされるとなると、たちまち、ローンや生活費や子どもの学費に響いてくる。病院の経営悪化の責任は経営者にあり、ひいては医療政策を決めている政治にある。

職員がいつも気分よく朗らかに仕事のできる環境を提供することは、経営者の責任である。経営者が職員を信じて経営していなければ、職員も経営者を信じてくれないだろう。仮に経営が厳しくなったとしても、経営者自らの給与分をゼロにしてでも職員に通常の状況での待遇を保障しなければならない。そうでなければ、職員はいとも簡単に経営者を見放し、退職してしまうだろう。今は看護介護職員を欲しいところは山ほどある。引く手あまたである。厚生労働省もよくわかっていて、特に介護施設では10年以上勤務している介護職員に対して、大いに評価する制度を拡大している。

あまりにも数多くの職種で成り立っている病院ではあるが、常に病人を治すという合目的な動きに集約されていなければならない。それにはチームワークが必要であり、経営者が自らの利益保持に汲々としているかどうかは、職員はとっくの昔にお見通しである。

楽しくやりがいのある職場でないと職員はついて来てくれない。1番に患者のため、2番に職員のためである。チーム医療が当たり前の現在、安易に人件費を削るべきではないのではないでしょうか!

武久洋三(医療法人平成博愛会博愛記念病院理事長)[医療機関経営]

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