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【識者の眼】「外来診断訴訟の高リスク:くも膜下出血」徳田安春

No.5058 (2021年04月03日発行) P.64

徳田安春 (群星沖縄臨床研修センターセンター長・臨床疫学)

登録日: 2021-03-22

最終更新日: 2021-03-22

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くも膜下出血は医療訴訟の多い疾患の上位に入る。重篤かつ緊急性が高い疾患であり、しかも日本では頻度が高く比較的コモンディジーズである。日本と並んで多いのはフィンランド。両国共に塩分摂取が多いのが関連しているかもしれない。危険因子は、高血圧、喫煙、飲酒、家族歴、多嚢胞性疾患など。

機序としては動脈瘤によるものが圧倒的に多いが、それ以外にも、外傷性、感染性動脈瘤(心内膜炎を考慮)、血管炎、動静脈奇形、もやもや病などのことがある。脳ドックで動脈瘤の存在が既にわかっている人の場合、動脈瘤のサイズが大きいことと、後方循環系にある動脈瘤の場合に破裂のリスクが高い。

典型例は雷鳴頭痛。突然発症で数分以内に最大に達する頭の痛みだ。よく、バットで殴られる様な痛みという表現があるが、くも膜下出血の患者でそのような痛みであったと答える人はリアルワールドでは意外に少ない。実はそこに診断訴訟のリスクが潜んでおり、コモンな疾患なため、非典型的な発症の仕方で受診するケースが多いことが、ピットフォールとなる。

非典型例では、頭痛以外の症状も訴えて受診することがある。頸部痛、腰痛、発熱、複視、一過性意識消失、けいれん、などだ。頸部痛と腰痛、発熱は髄膜刺激症状であり、複視は動脈瘤による動眼神経の圧迫で起こる。発熱で髄膜炎、複視で眼科疾患と紛らわしいこともある。くも膜下出血の場合の一過性意識消失とけいれんは頭痛の後に起こることが多いが、意識低下後には麻酔をかけたかの様に、頭痛が先行したことを忘却することがある。また、たこつぼ心筋症を合併することで、心不全や胸痛、心電図変化もきたすことがあり、急性冠症候群と診断されるケースもある。

非典型例の頭痛のなかには、程度が軽いことも含まれる。見逃しを防ぐには、くも膜下出血での症状が「突然発症」であることを見抜くことである。そのためには「頭が痛くなった時に何をしていましたか」と尋ねるとよい。これを克明に覚えている場合は突然発症であることを示唆する。

徳田安春(群星沖縄臨床研修センターセンター長・臨床疫学)[診断推論]

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