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【識者の眼】「ABO抗原は本当に糖鎖抗原と言えるのか」高橋公太

No.5058 (2021年04月03日発行) P.61

高橋公太 (新潟大学名誉教授、日本臨床腎移植学会元理事長)

登録日: 2021-03-08

最終更新日: 2021-03-08

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ABO式組織・血液型抗原(ABO抗原)は糖鎖抗原と呼ばれ、従来から抗原の特異性を決定しているのは末端の糖鎖とされており、A型抗原はN-acetyl-glucosamine、B型抗原はgalactoseでできている。ABO抗原は血管内皮細胞の表面にあるABO式組織型抗原(組織型抗原)と赤血球の表面にあるABO式血液型抗原(血液型抗原)の2種類のサブタイプに分けられる。従って、この説を踏襲すればこの2つの抗原の末端も2種類の糖鎖ということになるが、いつのまにか同一抗原とみなされ、一つのABO抗原の範疇に吸い込まれてしまった。

前回の本欄(No.5056)で「ABO血液型不適合腎移植(ABOi-TX)において、なぜ超急性拒絶反応(HAR)は発生しないのか」を取り上げたが、その回答としてこれら2つの抗原の相違によるものであることを明らかにした。すなわち、これら2つの異なる抗原を一つの抗原として取り扱ってきたことが、「ABOi-TXを実施するとHARが発生し、直ちに移植腎が機能廃絶する」という誤った既成概念を生み、長い間、ABOi-TXは免疫学的禁忌とされた。

それではこれらの2種類の抗原のどこに違いがあるのか追究するために、この糖鎖が結合しているタンパク質(anchor protein:AP)に注目して研究を進めた。血液型抗原のAPは以前よりBand 3およびBand 4.5と同定されている。そこで我々は組織型抗原のAPをプロテオーム(質量分析計)で解析した結果、PECAM1(platlet endotherial cell adhesion molecule-I)が大方半分を占め、その他にPLVAP(plasmalemmal vesicle associated protein)、およびvWf(von Willebrand factor)が主なAPであることを明らかにした。

ここで考え直してみると、抗原性を決定しているとされている糖鎖は、血液型を判定する時に凝集反応や試薬により同定される糖鎖である。したがって、in vitroの検査の論理をin vivoに当てはめることが果たして正しいのか。in vivoの世界では抗原を見分けるのは免疫担当細胞のリンパ球であり、おそらく「末端の糖鎖から中枢のAPまでの3次構造」まで幅広く認識しているのではないと考えられる。このような説に基づけば次のような事実も自ずと納得できる。

ABOi-TXでは、移植前に脱感作療法で抗体を産生するB細胞を十分に抑制できないと、レシピエントは移植された臓器の血管内皮細胞の表面にある組織型抗原に感作され、やがてde novo組織型抗体が産生され、移植数日〜1週間目に激しい急性抗体関連型拒絶反応が発生する。以前はこの拒絶反応を惹起する抗体は抗A抗B自然抗体(抗血液型抗体)と考えられていた。

用語の定義をする時は、十分に吟味しないと想定外のことが起こり、ひいては誤った既成概念が一人歩きする。

【参考文献】

▶Takahashi K, et al:Transplant Proc. 1991;23:1078-82.

▶高橋公太:移植.1998;33:145-60.

▶Takahashi K:ABO-incompatible kidney transplantation Elsevier Science. 2001.

▶Takahashi K,et al:Am J Transplant. 2004;4:1089-96.

▶Tasaki M, et al:Transplantation.2009;87:1125-33.

▶Takahashi K ed. ABO-incompatible kidney transplantation Elsevier. 2015.

▶高橋公太:日本臨床腎移植学会誌.2020; 8:197-216.

高橋公太(新潟大学名誉教授、日本臨床腎移植学会元理事長)[腎移植②]

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