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【識者の眼】「確実で安心なワクチン接種の環境整備を」小倉和也

No.5056 (2021年03月20日発行) P.53

小倉和也 (NPO在宅ケアを支える診療所・市民全国ネットワーク会長、医療法人はちのへファミリークリニック理事長)

登録日: 2021-03-03

最終更新日: 2021-03-03

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新型コロナウイルスに対するワクチン接種が日本でも開始された。他の先進国より遅れてのスタートとなったが、高齢化率の高い我が国での対策においては特に重要な局面に入ったと言える。

在宅ケアやプライマリ・ケアに関わる立場での課題は、自宅や施設で療養する方々を含め、希望する人が確実に安心して接種できる環境をいかに作るかだ。日本で現在用いられているワクチンは温度管理など取り扱いが難しく、また貴重なワクチンを無駄にすることもできないため、運搬から問診や接種後の経過観察まで入念に計画しなければならない。誰がどのように行うか、高齢者と障がい者が同居する施設での対応なども含め課題は多い。

既に接種が進んでいる国々でも課題は多いようだが、接種形式の選択肢を広げ、米国では施設での接種も大手薬局チェーンなどと連携しパッケージ化したプログラムを作って対応するなど、工夫をこらして接種を進めている。日本では実施方法は自治体に委ねられており、誰もが確実に接種可能とするためには、施設・在宅の現状も踏まえ短い期間で準備・計画する必要がある。情報が少ない中、関係学会や団体としての支援も必要と考えている。

もう一つ重要なのは、ワクチンを接種するか否かを選択するための、正しい情報を提供することだ。複数の調査によると、諸外国に比べ日本では予防接種一般に対する国民の信頼度が低いと言われている。一方、欧米のような強固な信念による反対は少なく、情報や知識の不足により不安を抱く人の割合が高いこともわかっている。信頼性の高い情報に基づく正しい理解による選択ができれば、個人だけでなく社会全体にとっても最善の選択をしていただける可能性が高いと考えている。

コロナ禍の困難を乗り越えるため、個人の選択を社会の中でどう位置付け、社会としてどのように進めるべきかが問われている。一方的な判断を強いたり、接種しない人やできない人を疎外することにならないよう注意しながら、正確かつ偏りのない情報に基づく意思決定ができる環境を整えることは、我々医療者の責任であると考え取り組んで行きたい。

小倉和也(NPO在宅ケアを支える診療所・市民全国ネットワーク会長、医療法人はちのへファミリークリニック理事長)[新型コロナウイルス感染症]

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