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【識者の眼】「道草ドクター」神野正博

No.5056 (2021年03月20日発行) P.56

神野正博 (社会医療法人財団董仙会恵寿総合病院理事長)

登録日: 2021-03-02

最終更新日: 2021-03-02

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下記は日本経済新聞朝刊に現在連載中の伊集院静氏による小説「ミチクサ先生」の一節である。五高の英語教師・夏目金之助と、教え子であり後に物理学者として、また俳人としても有名になった寺田寅彦との会話である。

「真っすぐ登るのはオタンコナスですか?」

五高はじまって以来の優等生の寺田寅彦は金之助の顔をじっと見て訊(き)いた。見られている金之助もかつて、一高はじまって以来の秀才と呼ばれたことがあった。

「そうさ、つまらない。そういう登り方をした奴には、あの築山の上がいかに愉(たの)しい所かが、生涯かかってもわからないだろうよ」

「ではどう登ればいいのでしょうか?」

「そりゃ、いろんな登り方でいいのさ。途中で足を滑らせて下まで落ちるのもよし。裏から登って、皆を驚かせてやるのも面白そうじゃないか。」

(日本経済新聞2021年12月3日朝刊より)

まさに、伊集院静氏が描く漱石の生き方の象徴的な部分であり、「ミチクサ先生」のモチーフであろう。

2月2日、「良質かつ適切な医療を効率的に提供する体制の確保を推進するための医療法等の一部を改正する法律案」が閣議決定され、国会に提出された。医師の働き方や外来機能報告制度などとともに、医師養成課程の見直しに関する法案を含む。これは、①共用試験合格を医師国家試験の受験資格要件とし、②共用試験に合格した医学生が臨床実習として医業を行うことができる旨(いわゆるstudent doctor)を明確化するものである。

これによって、医学部学生は4年間で膨大な基礎・臨床医学知識を詰め込み、共用試験後2年間は臨床の場にいながら、その後の国家試験対策に励むことになる。

いわゆる教養課程で、リベラルアーツとしての文学や音楽など教養に親しみ、哲学などと難しいことを言わずとも生き方を友と語る。スポーツに打ち込み基礎体力とチームワークを涵養する。治療や救命だけではなく、患者の人生に寄り添う「よい医者」には、「道草」が必要だと思うが、いかがなものだろうか。

神野正博(社会医療法人財団董仙会恵寿総合病院理事長)[医師養成課程]

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