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【識者の眼】「1年たっても変わらない日本の感染症対策」渡辺晋一

No.5051 (2021年02月13日発行) P.59

渡辺晋一 (帝京大学名誉教授)

登録日: 2021-01-26

最終更新日: 2021-01-26

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感染症対策の基本は、既に本欄で何回も述べているように世界共通で、①感染者の発見、②隔離、③治療である。しかし日本政府は一貫してこの基本対策の①、②を無視してきた。さらに習近平主席の来日や東京五輪開催を考慮して、水際対策が遅れた。また昨年の秋には感染が十分収まっていないのに、一部の国のビジネス往来を許可し、変異ウイルスの流入を許してしまった。さらに症状がほとんどない感染者からも感染が拡大することがわかっていたのに、PCR検査を絞り、市中感染を蔓延させた。しかもこの方針は、厚生労働省や医学の専門家会議が決めたようである。このような決定をした人の責任は重いし、彼らは本当に医学教育を受けていたのであろうか。

感染者の発見の次にやるべき感染症対策は、感染者の隔離である。しかし日本では感染者の発見が不十分だったので、一律に人と人との接触を避けるという予防対策しかなかった。そして政府が行ったのは人と人の接触を促すGo Toキャンペーンである。最近は飲食店に対する時短営業を要請しているが、午後8時前でも4人以下でも、会食をすれば感染は拡大する。逆に会食者に一人も感染者がいなければ、午後8時過ぎでも、大人数でも感染はしない。つまり、会食がいけないのであり、パーテーションがきちんとできたスペースで、一人で食事すればよいだけの話である。エビデンスのある感染防御対策は、感染者が少ないうちからessential workerを除くすべての人の接触を避けることであるが、日本政府の対策は、国民にマスク、手洗い、三密の回避をお願いすることが主なものである。

また一部のマスコミは、誰がやっても感染対策は同じだと言う。しかし野党は昨年からPCR検査の拡充、感染拡大を起こすGo Toキャンペーンの中止、緊急事態の発出を提言していた。また特措法の改正も昨年の春ごろに訴えていたが、政府は感染が収まってからと言って無視していた。今年になって政府は方針を変えたが、罰則を科すという異常な法改正案である。もともと市中感染者の発見を精力的に行っていない日本では、冬になると感染者が増えることが十分予想されていたが、政府は医療体制の拡充を行ってこなかった。今や入院したくてもできず、死亡する人が増えているのに、感染症法改正案では入院しない人に罰則を科すという。まさに戦前の日本に戻るようで恐ろしい。国民に罰則をかける前に政府の無策ぶりに罰則を科すべきである。

渡辺晋一(帝京大学名誉教授)[新型コロナウイルス感染症]

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