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【識者の眼】「『公助』と『共助』が存在して『自助』が活きる」武田裕子

No.5050 (2021年02月06日発行) P.76

武田裕子 (順天堂大学大学院医学研究科医学教育学教授)

登録日: 2021-01-25

最終更新日: 2021-01-25

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年の瀬から正月にかけて、東京の池袋の公園ではほぼ毎日TENOHASIというNPO団体による医療相談や生活相談、炊き出しが行われる。1年前は本当に寒かった。天幕を張り、石油ストーブを焚いても足先には霜やけができそうだった。炊き出しに並ぶ方たちは、温かいぶっかけ飯を食べた後、どこで夜を過ごすのかと考えるといたたまれない気持ちになった。忘れられた存在だと感じた。

しかし、今年は違った。「今夜、暖かく過ごせる場所はありますか?」と声をかけることができた。東京都が一時宿泊所を提供したからだ。希望すればビジネスホテルに2週間滞在できる。コロナ禍で炊き出しに並ぶ人は2倍近くになった。普段はみかけない若者や女性の姿もある。あたり前に働き生活をしていたのに、貯金が底をつきアパートにいられなくなったり、解雇されて会社の寮を出された人たちだ。新聞やテレビでも報道され、路上生活者は「働かないで楽をしている」わけでも「好きで路上にいる」わけでもないことがようやく理解されたように思った。

これまで医療相談で出会った人たちに生活保護を勧めると、「自分はまだ働ける、それはもっとかわいそうな人のためのものだ」「まず定職をみつけたい、家賃が払えるようになってから路上を脱出したい」と言われた。路上から働きに出る人がいることを、私は知らなかった。「こうなったのは自分の責任だ」と自身を責める人もいれば、「自分はそこまで落ちていない」と強い口調で答える人もいた。しかしそのような人も、もう働けないと感じる時がくる。心不全が疑われる方、痛みで歩行も困難な方に「治療が必要です、生活相談で福祉を利用しませんか」と声をかけると、ようやく頷いてくれる。

私がこの活動に参加するのは、気にかけている人がいると知ってほしいから、困った時に頼る先があると伝えたいからだ。苦しい「自助」を続けている人に、「共助」の立場で伴走する。「公助」につながることを願って。今回のように最初から「公助」があったらどんなによいだろう。生活保護受給の時のように、家族に連絡されて迷惑をかけるという心配や、施設での集団生活を強いられることなく、安心して眠れる場所が得られるとしたら。その時こそ「共助」による伴走が「自助」を強めるだろう。欧米では、条件を付けずに住まいを提供する「ハウジングファースト」という施策が、路上生活者の自立を助けている。年末年始だけで終わらないでほしい。

武田裕子(順天堂大学大学院医学研究科医学教育学教授)[路上生活者][公助・共助・自助][ハウジングファースト]

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