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【識者の眼】「コロナ禍でのフレイル予防と外出」北村明彦

No.5049 (2021年01月30日発行) P.55

北村明彦 (東京都健康長寿医療センター研究所研究部長)

登録日: 2021-01-19

最終更新日: 2021-01-19

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新型コロナウイルス感染症の第3波は止まらず、1月13日現在、11都道府県への緊急事態宣言発令となった。年始に父を亡くした私は、東京から地方への移動を自粛し、見舞いにも葬儀にも行くことが出来なかった。多くの病気はコロナの動向に左右されずに発症し時に人を死に至らしめるものであり、私どもの大都市部の高齢者研究コホートの追跡調査の結果をみても、1回目の緊急事態宣言期間(2020年4〜5月)の月別死亡数はそれ以前と大差がなかった。一方、新規要介護申請数は2020年2月以降明らかに減少し、5月に最少となった後に宣言解除後の6月に一転、約2倍に急増した。コロナ禍が要介護申請に影響を及ぼしていると推察されるが、フレイルを「要介護の一歩手前の生活機能低下」と定義するならば、緊急事態宣言期間には、フレイル高齢者が急増していると言えるであろう。また、そうした操作的定義によるフレイルの増加のみでなく、高齢者の実際の心身機能は長引く自粛の影響により少なからず低下していると危惧される。

そこで「自粛生活の中でのフレイル予防」が課題となるのであるが、フレイル予防に効果的な体力維持の基礎となるウォーキング、栄養豊富な食材の買い物、社会参加や人との交流を高齢者に働きかけようにも、首長や専門家が一様に「昼も夜も外出を控えて」「高齢者は外に出ないでください」などと号令をかける現状では、混乱を生むこととなる。私どもの山間地域の高齢者への調査結果では、第1波時の生活の変化として、知人や近所の人と会うことが減った人は約5割、運動および買い物が減った人はともに約3割を占めた。また、非対面交流が推奨されても、電話やメールが増えた人は約6%しかおらず、逆に約17%の人が減ったと回答していた。コロナ禍でのフレイル予防の視点からは、「不要不急の外出を控えましょう」ではなく、「感染リスクの高い場所・空間への外出を自粛すること」と明確なメッセージを国民に伝える必要がある。

北村明彦(東京都健康長寿医療センター研究所研究部長)[新型コロナウイルス感染症]

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