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【識者の眼】「親を見舞う」佐藤敏信

No.5049 (2021年01月30日発行) P.56

佐藤敏信 (久留米大学特命教授、元厚生労働省健康局長)

登録日: 2021-01-14

最終更新日: 2021-01-14

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No.5018(2020年6月27日発行)の本欄「家族の面会も不要不急?」において、コロナ後の面会について書いた。

繰り返し書いてきたように、母は79歳から8年間独居であった。私は東京にいたので、当初は電話で状況を確認していたが、そのうちに家の中で何度も転倒するようになり、テレビ電話を導入することにした。カメラとマイクが内蔵された本体をテレビの上部に引っかけ、HDMIケーブルでテレビに繋ぐ、skype利用のtelyHDという機器だ。着信があると勝手にスイッチが入り、自動で入力切り替えをしてくれる。高画質で広角なので、表情はもちろん、ちゃんと食事が取れているか、部屋が散らかっていないかなどを知ることができた。ところがそのうちにskype側の方針でテレビと連携するサービスは終了した。

それでも今さら電話には戻れない。そこで、カメラもマイクも内蔵のパームトップと呼ばれる小さなPCに切り替えることにした。さらにRGBケーブル経由で古いモニターに接続し、大画面で見れるようにした。電源を入れっぱなしにしておき、呼び出し音が鳴ると、マウスを使って「応答」をクリックするのだ。そこで80歳を過ぎた母にマウスのクリックの特訓をしなければならなくなった。数時間かかったが、何とか習得した。

そのうちに、私が週の半分は福岡に戻るようになり、使用することはなくなった。さらに母はサービス付き高齢者住宅に入所した。個室なので、従来は気の向いた時に訪問して見舞うことができていた。ところが、昨年4月の緊急事態宣言後は面会自体が許されず、せいぜい玄関のガラス越し。互いの声も聞き取りにくい状態になったが、そのうちに玄関のちょっとした空間に面会のスペースが設けられた。椅子が相対して置かれ、間にはビニールのカーテンがある。面会のたびに母をそこまで連れてきてもらわないといけないので、職員に手間を取らせる。夏は熱風が、冬には寒風が吹き込む。それでも会えないよりは数段ましだ。

それにしても、現在92歳の母と会える時間は極めて限られているように思われる。それなのに面会が制限されてしまった。人間はいつかは死ぬ。コロナは確かに大変だが、実際にはそれ以外で死ぬことの方が多いだろう。家族と会えなくなって、元気や生きがいを失くしている高齢者も多いのではないか。

佐藤敏信(久留米大学特命教授、元厚生労働省健康局長)[コロナ後の面会]

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