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【識者の眼】「無症状スクリーニング大腸内視鏡検査は90歳以上の余命を延長しない」渡邉一宏

No.5041 (2020年12月05日発行) P.58

渡邉一宏 (公立学校共済組合関東中央病院光学医療診療科部長)

登録日: 2020-11-27

最終更新日: 2020-11-27

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超高齢者は大腸がん死亡率が高いため無症状でも大腸内視鏡検査(CS)を受けた方が良いのか? また90歳の人がCSを受けることで余命を延長できるのだろうか? この自問に対し2013年に私は当院で当時90歳以上の超高齢者でCSを受け5年以上経過した対象者に郵送によるアンケート調査を実施し、平均生存期間は3.7年で対照群と比べ有意な延命がないと報告した。この後ろ向き観察期間における死因は自然死の老衰が最も多く、治療群などの検討から血便などの症状が出てからの検査・治療開始でも十分なCS効果があるとも結論した(渡辺一宏:Prog Dig Endosc. 2015;87:63-7)。そこにはCSだけでは介入できない天寿がある。さらに、このアンケートでは、返書のあった本人か遺族の約8割全てから、その後の人生を不安なく過ごせたと感謝の言葉が寄せられた。CS満足度は非常に高く、不安を取り除くという意味からもCS希望者を排除してはいけないと痛感させられた。しかし、同時に返書のない2割は不満があるのかもしれない。ここでオランダのCS後の実態調査の報告がある。電話問い合わせでCS受験者の34%が、軽微なものも含め検査関連性の有害事象を経験していた。さらに検査と関係ないが本人が有害事象と感じている人は10%もいた。これは一般的な報告よりかなり多い(de Jonge V, et al:Am J Gastroenterol. 2012;107;878-84)。CSの不満は大腸がん1次あるいは2次検診の受診率低下に直結する。2013年のアンケートでは日本人の静かな不満を数値化することは極めて難しかったが、最近は欧米化しているので比較的容易なのかもしれない。

さて、近年の米国における肛門管がん(扁平上皮がん)増加が報告されている(Deshmukh AA, et al:J Natl Cancer Inst. 2020;112:829-38)。私も高齢者の肛門管病変の内視鏡的粘膜下層剥離術(ESD)治療を行っており内視鏡医が注意すべき疾患である。上部内視鏡における咽喉頭部の観察と同様に、大腸内視鏡でも挿入時や抜去時の直腸反転などでの肛門管観察が益々重要となっている。

渡邉一宏(公立学校共済組合関東中央病院光学医療診療科部長)[内視鏡医療における地域貢献][大腸がん検診③]

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