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【識者の眼】「30年前と30年後」塩尻俊明

No.5040 (2020年11月28日発行) P.53

塩尻俊明 (地方独立行政法人総合病院国保旭中央病院総合診療内科部長)

登録日: 2020-11-16

最終更新日: 2020-11-16

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以前ある新聞に連載されている「サザエさんをさがして」に関連した取材を受けたことがあります。テーマは、「サザエさん」のかかりつけ医の仕事が、コンピューターにとって代わられているという4コマ漫画でした。今から50年も前に長谷川町子さんはAIによる診療を予見されていましたが、私は研修医であった30年前に、スマートフォンや電子カルテだけでなく、現在の様々な診断・治療機器の発達をまったく想像できませんでした。この先30年後も、想像もできないテクノロジーが発達していることは間違いないと思います。AIを利用して、既に人の力では到底及ばないスピードで膨大なデータを大量に読み込みこませ、診断や治療の知見を導き出すことが現実となりつつあります。より効率よく患者から情報を拾い上げ、可能性の高い診断名と、鑑別診断、必要な検査やEBMに基づく適切な治療などが、そのうちもっと簡便に我々医師に提示されるようになり、フレームワークによる初歩的ミスは確実になくなると思います。ただ、例えばある診断に関して、何故そのような結論に至ったか、AIではその過程が時にブラックボックスになってしまうかもしれません。医師もAIに頼りきりだと思考が停止し、それこそ医師としての学習が止まってしまいます。患者に真の安心を与えるためには、患者に診断の過程や病態生理を説明できなければいけません。さらに、患者の病態は、モニターで追えないところで刻々と変化していきます。流動的に動く病態を追いかけるには、医師自身の総合力が必要不可欠かと思います。

30年前の私の研修医時代から、いやそれ以前の医学の歴史においても、患者の眼、表情、言葉のトーン、感情、苦悩、怒り、安堵、疑念を理解しながら問診し、本人の生活から病態のヒントを見つけ出し、人とのつながりの中で病気を考え、日々経時的に患者と関わっていくという作業は、30年後にすばらしいテクノロジーが発展していたとしても、色あせることなく存在していると信じたいです。

塩尻俊明(地方独立行政法人総合病院国保旭中央病院総合診療内科部長)[総合診療

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