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【識者の眼】「たくさんあるは、たくさんはない」岩田健太郎

No.5037 (2020年11月07日発行) P.57

岩田健太郎 (神戸大学医学研究科感染治療学分野教授)

登録日: 2020-10-30

最終更新日: 2020-10-30

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現在、何千という臨床試験が新型コロナウイルス感染症(COVID-19)治療の目的で走っている。この疾患が認識されるようになってからまだ1年もたっていないのだから、これはものすごいことである。山のような治療薬の候補が提示され、その効果についての基礎医学的な理念や理路や仮説が提唱され、そして試験によって検証され続けている(https://www.pharmaceutical-journal.com/news-and-analysis/features/everything-you-need-to-know-about-the-covid-19-therapy-trials/20208126.article?firstPass=false)。

しかし、何千という臨床試験が走っているという事実は、「これといった決定打が皆無」という逆説的な証左でもある。女性週刊誌が毎週のように新たなダイエット法を紹介してるのは、決定的なダイエットの方法がないからだ。この例え話は伝わりやすいので、もう何十年も使っているが、実のところ女性週刊誌を何十年も読んでいないので、嘘だったらごめんなさい。

現在のところ、ランダム化比較試験(RCT)で死亡リスクの低下が確認されたのはデキサメタゾンだけ。念のため、申し上げるが、これはいわゆるステロイドパルスのことではなく、COVID-19に(いまのところ)ステロイドパルスは使ってはいけない。

たとえば、インターロイキン-6(IL-6)を下げてCOVID-19を治療できるという仮説も立てられた。まっとうな仮説だ。そこで白羽の矢が立ったのは、トシリズマブ(商品名アクテムラ)である。IL-6を選択的にブロックするこの薬は、COVID-19の治療薬にはうってつけと思われ、事実、後ろ向きの観察研究では、そのことを示唆するものも現れた。

しかし、最近発表されたRCTでは、トシリズマブはCOVID-19患者の死亡リスクを減らすことはできなかった。それどころか、COVID-19患者では、他の重症患者に比べると実はIL-6は上がっていなかった、ことも判明した(Leisman DE, et al:Lancet Respir Med. 2020;S2213-2600(20)30404-5. https://www.thelancet.com/journals/lanres/article/PIIS2213-2600(20)30404-5/fulltext)。日本人はついつい日本産の薬を贔屓しがちだが、ここはまっとうにデータを吟味せねばならぬ。

岩田健太郎(神戸大学医学研究科感染治療学分野教授)[新型コロナウイルス感染症治療薬]

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