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【識者の眼】「なぜ少子化となったのか? ─就職早期から妊活の奨励を」久保隆彦

No.5032 (2020年10月03日発行) P.62

久保隆彦 (代田産婦人科名誉院長)

登録日: 2020-09-23

最終更新日: 2020-09-23

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2019年の人口動態統計年間推計による出生数が86万4000人と発表され全国に衝撃が走った。戦後1947年の第一次ベビーブームでは267万9000人、73年には209万2000人、83年には150万9000人、2005年には106万3000人、17年には94万6000人、そして昨年は86万人と我が国の出生数はこの70年間で1/3以下に減少した。15年のデータから推計し17年に発表された国立社会保障・人口問題研究所による将来予測(出生数中位予測)では、出生数が90万人を割り込むのは20年、86万人台となるのは21年と予測されていたが、昨年の出生数はその予測すら下回っていた。なお、21年以降の出生数の将来予測は24年85万1000人、32年80万4000人、45年69万9000人、57年60万人と驚くべき数字である。

出生数の予測指標として「合計特殊出生率」が知られている。これは、出産可能とされる15〜49歳の女性が産む子供数の平均である。1947年には4.54、1973年には2.14、1983年には1.80であったが、1989年に1.57となり、「1.57ショック」と報道され大騒ぎとなった。2005年にはさらに1.26まで低下したものの、2017年には1.43まで回復していただけに、昨年の出生数の激減は我々産科医にとってショックであった。

政府は少子化対策として、妊婦健康診査ならびに出産育児一時金の増額あるいは子供の医療費無料化、学費の無料化などの有り難い経済支援策を打ち出しているが、一向に効果が上がっていない。

私は、この少子化の最大の原因は結婚年齢の高齢化に伴う初産年齢の高齢化であると考えている。平均初婚年齢は1947年に22.9歳であったが2018年には29.4歳と6.5歳も上昇した。同時期に第一子出産平均年齢も24.4歳から30.7歳と6.3歳上昇した。日本産科婦人科学会生殖委員会によると、妊娠希望で不妊治療に来院した女性に不妊治療し、出産までに至る比率は30歳で19.9%、35歳で16.3%、40歳で7.7%に過ぎない。すなわち、結婚し挙児希望をしても女性の年齢によっては出産できない可能性がある。したがって、結婚年齢の高齢化は妊娠・出産数を制限しうる。女性の高学歴化、社会進出は当然であるが、受け入れる企業の妊娠・出産・育児への配慮が極めて少ないことが最大の原因と考えている。大企業であっても、結婚は祝福しても妊娠に関しては配慮を求めていることをよく耳にする。本当は企業が就職前あるいは直後早期から結婚・妊娠・育児を奨励する、夫の育休を含めた制度確立・経済支援を率先すべきである。我が国の企業トップには就職早期から妊活を奨励する意識改革と対応が早急に望まれる。

久保隆彦(代田産婦人科名誉院長)[周産期医療(産科、新生児医療)]

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