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MRSA感染症の治療ガイドライン改訂版2019[ガイドライン ココだけおさえる]

No.5031 (2020年09月26日発行) P.34

松本哲哉 (国際医療福祉大学医学部感染症学講座主任教授)

登録日: 2020-09-28

最終更新日: 2020-09-23

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  • 主な改訂ポイント〜どこが変わったか

    1 疫学情報を基に院内感染型メチシリン耐性黄色ブドウ球菌(HA-MRSA)の減少傾向について解説した

    2 市中感染型MRSA(CA-MRSA)の分離頻度が高まっており,病原性を含めて注意喚起を行った

    3 新規抗MRSA薬としてテジゾリド(TZD)が発売され,本薬剤の適切な使用法について解説を行った

    4 各種MRSA感染症の治療の変化に対応して,表現の見直しを行った

    1 総論:2017から2019へ

    全体的にどのように変わったか

    メチシリン耐性黄色ブドウ球菌(methicillin-resistant Staphylococcus aureus:MRSA)は代表的な耐性菌のひとつであり,現在でも臨床の現場で最も多く分離される。そのような意味でMRSA感染症の治療ガイドラインは2013年の第1版の公開以降,MRSA感染症の診療面の拠り所として,重要な役割を担ってきた。

    本ガイドラインは2014年と2017年にも改訂版を公表しているが,さらに今回,2019年の改訂版を公開した。このように短期間で改訂を繰り返している背景には,MRSAの疫学的な変化や検査法の進歩,新規抗MRSA薬の発売,感染対策面の変化など,MRSA感染症を取り巻く状況の変化がある。

    2 院内感染型MRSA(HA-MRSA)および 市中感染型MRSA(CA-MRSA)の変遷

    なぜ変わったか

    MRSAは前述のように国内の耐性菌としては最も多く分離されているが,全体的にその分離頻度は低下傾向にある。厚生労働省による院内感染対策サーベイランス(Japan Nosocomial Infections Surveillance:JANIS)の情報に基づくと,臨床から分離される黄色ブドウ球菌の割合は経年的に減少傾向を示し,最近では5割を割り込んでいる。ただし直近では,MRSAの割合は下げ止まりの状態となっており,その理由として以下に述べる新しいタイプのMRSAが増加していることが考えられる。

    MRSAは院内感染型(hospital-associated MRSA:HA-MRSA)と市中感染型(community-acquired MRSA:CA-MRSA)にわけることができる。臨床的な鑑別点としては,HA-MRSAは入院患者から分離され,CA-MRSAは市中の健康な人から分離されたととらえられている。一方,細菌学的にはstaphylococcal cassette chromosome mec(SCCmec)遺伝子のタイプによって主にⅠ,Ⅱ,Ⅲ型をHA-MRSA,Ⅳ,Ⅴ型をCA-MRSAと判定している。このように臨床による判定と細菌学的な判定が異なるため,現在でも混乱が生じる場合がある。

    前述の黄色ブドウ球菌に占めるMRSAの割合の減少は,主にHA-MRSAの分離頻度の低下が反映された結果であると考えられる。これは医療機関における感染対策の徹底や抗菌薬の適正使用によって得られた成果であると推測される。一方,CA-MRSAはその保菌者の大半は市中の健康な人と考えられるため,医療機関の感染対策の対象範囲外であり,対策を徹底しても減らすことは困難と考えられる。ただしCA-MRSAは従来,外来診療や入院時の持ち込みが問題となっていたが,最近の傾向としては,入院患者からも分離される頻度が高くなってきている。

    MRSAは上記2つのタイプに加えて,家畜関連型MRSA(livestock-associated MRSA:LA-MRSA)も存在している。LA-MRSAは主にブタやウシなどの家畜に広がり,ヒトにも感染する事例が発生している。海外では欧州を中心に広がっているが,国内ではまだ問題となっていない。このようにMRSAは時代の流れとともに,異なるタイプが出現し,臨床の現場でみられる感染症にも変化が認められる。

    ◉実臨床での対応
    実臨床において,MRSA感染症について問題となるのは,HA-MRSAとCA-MRSAで対応が異なるのか,という点だと思われる。検査の面では,どちらも一般的な検査によってMRSAであることが判定可能である。ただし,明確にHA-MRSAとCA-MRSAを判別するためには,遺伝子学的な検査が必要となる。そこで,多剤耐性を示すHA-MRSAと異なり,CA-MRSAは比較的多くの抗菌薬に感受性を示しやすいという特徴を活かし,薬剤感受性結果をふまえてHA-MRSAとCA-MRSAのどちらであるかを推定することは可能である。

    疾患の重症度という点においては,感染症の重症度に影響する要因は患者の基礎疾患や疾患の種類などにもあるため,一概にHA-MRSAとCA-MRSAのどちらが重症であるとは言い難い。ただし,現在,米国など海外で分離されているCA-MRSAの株は,Panton-Valentine leukocidin(PVL)と呼ばれる病原因子を産生するものが多く,他の病原因子も含めてHA-MRSAよりも病原性が強い傾向が認められる。たとえば,PVLを産生するCA-MRSA株で肺炎を発症した場合は,重症化しやすいという報告が多い。なお,すべてのCA-MRSA株がこれらの病原因子を有しているわけではなく,わが国の臨床分離株はCA-MRSAであっても,PVLなどは陰性のタイプが多い。

    治療においては,前述のようにCA-MRSAは比較的多くの抗菌薬に感受性を示しやすい。そのため,CA-MRSAによる軽症の皮膚感染症では,スルファメトキサゾール・トリメトプリム(ST)合剤やテトラサイクリン系,フルオロキノロン系などの経口抗菌薬が有効な場合があるが,最近では,耐性化の問題が指摘されている。CA-MRSAによる中等症以上の感染症においては,HA-MRSAと同様に抗MRSA薬を用いた治療が必要になると考えられる。

    感染対策面においては,HA-MRSAとCA-MRSAとで対応を変えることは通常行わない。ただし,CA-MRSAは院外からの持ち込みのリスクもあるため,これまで入院歴や手術歴などHA-MRSAのリスクがみられない患者であっても,保菌状態で入院してくる可能性が考えられる。また,CA-MRSAであっても,いったん院内に持ち込まれればHA-MRSAと同様に院内で広がり,アウトブレイクを起こすこともありうるため,接触感染予防策の適応となる。

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