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糖尿病性昏睡[私の治療]

No.5031 (2020年09月26日発行) P.44

山内敏正 (東京大学大学院医学系研究科糖尿病・代謝内科教授)

庄嶋伸浩 (東京大学大学院医学系研究科糖尿病・代謝内科特任准教授)

登録日: 2020-09-25

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  • 糖尿病における昏睡については,高血糖と低血糖の鑑別が必要であり,血糖測定が望ましい。高血糖をきたす糖尿病性昏睡は,高度のインスリン作用不足によって起こる急性代謝失調が原因で,糖尿病ケトアシドーシスと高血糖高浸透圧症候群がある。糖尿病ケトアシドーシスは,インスリンの欠乏,拮抗ホルモンの増加により,ケトン体産生が起こる。高血糖高浸透圧症候群は,高血糖,浸透圧利尿による脱水,高浸透圧血症を呈する。高血糖高浸透圧症候群における脱水は糖尿病ケトアシドーシスより高度であるが,インスリンの欠乏は相対的であり,ケトーシスは軽度である。また,乳酸の産生過剰あるいは代謝障害による乳酸アシドーシスによっても昏睡が起こる。
    日本糖尿病学会の糖尿病治療に関連した重症低血糖の調査委員会の報告によれば,回復に他者の援助を必要とする重症低血糖は,年間救急搬送件数の0.34%を占めている。

    ▶診断のポイント

    糖尿病ケトアシドーシスでは,インスリンの欠乏,コルチゾールやアドレナリンなど,インスリン拮抗ホルモンの増加により,高血糖,β-ヒドロキシ酪酸などケトン体産生,アシドーシスが起こる。糖尿病ケトアシドーシスは,1型糖尿病の初発症状として認められる。また,1型糖尿病において,感染症を併発する場合や,誤ってインスリンを中止した場合などに認められる。2型糖尿病においても,ステロイドや向精神薬(オランザピン,クエチアピンなど)等の薬剤を投与した場合,大量の糖質摂取によるソフトドリンクケトーシスをきたした場合に認めることがある。脱水,口渇,多飲,多尿が出現し,意識障害,体重減少を呈し,腹痛や悪心を伴うこともある。呼気のケトン臭,代謝性アシドーシスを補正するための過呼吸を認める。

    高血糖高浸透圧症候群では,著しい高血糖と高度な脱水に基づく高浸透圧血症により循環不全をきたした状態であるが,インスリンの欠乏は相対的であり,著しいアシドーシスは認めない。高血糖高浸透圧症候群は,2型糖尿病で感染症などを合併する場合に発症しやすい。

    乳酸アシドーシスでは,乳酸の産生過剰や代謝障害により,血中の乳酸が増加し,代謝性アシドーシスを生じる。消化器症状,意識障害,ショック状態を呈し,死亡率が高い。ビグアナイド薬を使用する場合は,適正使用に関するrecommendationに従う。

    低血糖は,糖尿病治療薬の種類や量の誤り,食事の遅れ,食事量または炭水化物の摂取が少ない場合や,いつもより強く長い身体活動の最中または運動後に起こりやすい。低血糖において,動悸,発汗,脱力,昏睡などの症状がある。低血糖を頻回に繰り返している場合は,自覚症状がないまま意識消失などの重篤な状態をきたす無自覚低血糖となる。

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