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咳嗽・喀痰の診療ガイドライン2019[ガイドライン ココだけおさえる]

No.5030 (2020年09月19日発行) P.31

金子 猛 (横浜市立大学大学院医学研究科呼吸器病学主任教授/附属病院呼吸器内科部長)

登録日: 2020-09-21

最終更新日: 2020-09-16

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  • 主なポイント〜どのようなガイドラインなのか

    1  咳嗽と密接に関係する喀痰を一緒に取り扱った,喀痰診療に関する世界初のガイドラインである

    2  喀痰とは,「下気道から気道外に喀出された気道分泌物の総称」であり,喀痰症状は,気道過分泌の病態の存在を示唆する

    3  喀痰の性状や色調から,原因疾患や病態の推定が可能になることがある

    4  喀痰検査(細菌学的検査および細胞診検査)は,原因疾患の診断と治療に重要である

    5  喀痰症状に対する治療は,原因疾患に対する治療が原則である

    6  喀痰調整薬は作用や効果に違いがあるため,喀痰の性状や原疾患の病態に基づいて使いわける

    1 総論

    本ガイドラインは,日本呼吸器学会「咳嗽に関するガイドライン第2版」の改訂に伴い,咳嗽と密接な関係にある喀痰も一緒に取り扱い,新たに「咳嗽・喀痰の診療ガイドライン2019」として発行された。

    呼吸器疾患の病態を咳嗽と喀痰の両面から理解することは,治療戦略を講じる上で重要である。喀痰は,同時に咳嗽を誘発することで患者のQOLを低下させ,喀出が困難になると換気障害が生じ,呼吸不全や窒息死の原因となる。また,気管支喘息や慢性閉塞性肺疾患(chronic obstructive pulmonary disease:COPD)などの慢性呼吸器疾患においては,喀痰の存在が重症の病態を示唆し,コントロール不良や病状進行,予後不良と相関する。したがって,喀痰症状の背景にある,気道過分泌の病態を理解することがきわめて重要になる。

    喀痰は身近な症状であるものの,診断や治療における重要性については,臨床医に十分認識されていない。本ガイドラインは,喀痰が生じる病態について十分に理解することで,診療に役立てることを目的としている。

    本稿では,ガイドラインの内容に従い,「喀痰の発生機序」「喀痰の分類と原因疾患」「喀痰診療の原則と喀痰治療薬」の3つのテーマについて,ガイドラインで取り上げたfrequently asked question(FAQ)を中心に解説する。

    2 喀痰の発生機序

    (1)喀痰と気道分泌物

    喀痰とは,「下気道から気道外に喀出された気道分泌物の総称」であり,気道において分泌物が過剰に存在することを示唆する。生理的な気道分泌物は下気道において1日約100mL産生されるが,気道壁からの再吸収や呼吸に伴う蒸発などにより大部分は排除され,声門に到達する量は1日約10mL程度となり,無意識のうちに嚥下されるため喀痰は生じない。喀痰が生じるのは,「下気道分泌の異常な増加が線毛輸送の処理能力を上回り,気道内に貯留した分泌物が咳嗽により気道外に排除されるという生体防御反応の結果」である。

    生理的気道分泌物は,気道上皮細胞を通過した水分と,粘膜下腺と気道表面の杯細胞から産生されたムチンが主成分であり,これに少量の蛋白質,脂質,電解質,および漏出した血漿成分が加わる。

    一方,炎症が生じた病的気道においては,分泌細胞からのムチンおよびその他成分の分泌過剰,血漿成分の滲出,気道上皮細胞からの水・電解質の分泌異常により,物理・化学的性状が変化した分泌物が増加する。炎症により気道粘膜の血管透過性が亢進して血漿成分が滲出するが,血漿蛋白質はムチンと絡み合って複合体を形成することで,プロテアーゼによるムチンの分解を阻害し1)2),気道粘液の粘稠度を増加させて,粘液栓の形成に関与する。

    また,気道内腔へ浸潤した好中球などの炎症細胞が壊死に陥るとDNAやアクチンを放出し粘稠度を高める。なお,本ガイドラインでは気道粘膜の血管から滲出・漏出した血漿成分も気道分泌物に含めているが,狭義に,気道分泌物とは,気道の分泌細胞,つまり粘膜下腺の粘液細胞と漿液細胞,および杯細胞からの分泌物に限定される3)

    (2)気道分泌物の機能

    気道分泌物の生理的な機能についても理解をしておくことが重要である。これらは,①恒常性保持機能(加湿,潤滑など),②バリア機能(高分子の捕捉,微生物や粒子の侵入阻止,捕捉した異物排除のための輸送媒体),③生体防御機能(免疫グロブリン反応,プロテアーゼ阻害など多様な酵素活性,リゾチームやラクトフェリンなどによる抗菌機能)であり,正常な呼吸運動を維持している。特に,捕捉した異物排除のための輸送媒体は,粘液線毛輸送系を構成し,盲端となっている気道のクリーニング機能を担っている。

    気道分泌物は,ゲル層とゾル層の2層にわかれて,気道上皮を被覆している(図1)4)。ゾル層(線毛周囲層)の成分は,気道上皮細胞から分泌される水分と漿液細胞から分泌される漿液に由来し水分を多く含んでいるため,この中に存在する線毛が運動しやすくなっている。一方,上層であるゲル層(粘液層)は,粘膜下腺の粘液細胞と杯細胞から分泌されるムチン(MUC5BとMUC5AC)を主成分としているため粘弾性が高く,線毛運動によってゾル層の上をスライドしながら喉頭方向に常時輸送されている。肺サーファクタントはゾル層とゲル層の間に膜状に存在することで円滑なゲル層の輸送を可能にしている。

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