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苦悩と癒し[1]─プライマリ・ケアと苦悩[プライマリ・ケアの理論と実践(73)]

No.5029 (2020年09月12日発行) P.12

草場鉄周 (北海道家庭医療学センター理事長)

登録日: 2020-09-10

最終更新日: 2020-09-09

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SUMMARY
医療現場で遭遇する患者の抱える苦悩は「患者を人として理解する」ことを目指すプライマリ・ケア医が向き合うべき大切な健康問題であり,直観や自己の経験だけに頼らず,十分な知識と技能を持って対応するべきである。

KEYWORD
苦悩
苦悩とは病気そのもの,あるいは病気が引き起こす症状のみならず,それによって失われた人としての自立性や完全性の喪失がもたらす苦しみであり,生きがいの喪失,罹患の不条理さ,将来の不確実さなどのタイプがある。

草場鉄周(北海道家庭医療学センター理事長)

PROFILE
1999年,京都大学医学部卒業。2003年に家庭医療学専門医研修を修了後,2008年に医療法人北海道家庭医療学センターを設立。公職は日本プライマリ・ケア連合学会理事長,北海道医療対策協議会委員など。

POLICY・座右の銘
人の一生は重荷を負うて遠き道を行くがごとし。急ぐべからず。

1 ケース

74歳女性。2年前に夫に先立たれ,現在一人暮らし。あなたの診療所には10年前から通院しており,当初は高血圧と気管支喘息の治療を提供していたが,5年前に心筋梗塞を発症し,回復後も心不全に対する治療を継続している。1年前から下肢のしびれと痛みが出現し,腰部脊柱管狭窄症の診断で様々な鎮痛薬による内服治療をするも疼痛の十分な軽減は得られず,手術については心機能・呼吸機能低下を考慮するとリスクが高いと見送られている。

3カ月前から毎月受診する度に,一人暮らしで炊事洗濯,掃除などを行う際の疼痛のつらさを訴え,「生きていても仕方がない,早く夫の元に旅立ちたい」と涙を浮かべながら語る。周囲に子どもや親戚がおらず,家事支援の外部サービス利用を打診するも,他人の支援を得てまで生きることは望まないとの頑なな姿勢で,医療・介護の面から介入することが難しい状況となっている。

あなたは患者の疼痛と生活の負担について共感しながら話に耳を傾け,その苦悩を受け止めようと試みてきたが,同じ訴えが3回,4回と続く中,はたして自分は医師としてこの方に何ができるのだろうかと無力感を覚え始めていた。時には,解決策を提示できない医師への不満の言葉に苛立ちを覚えることさえもあった。患者に寄り添うことがプライマリ・ケア医のあるべき姿という信念にも揺らぎが生まれていた。

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