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【識者の眼】「小児癌のインパクト─標準治療が困難なアジアの低中所得国」松田智大

No.5028 (2020年09月05日発行) P.59

松田智大 (国立がん研究センター企画戦略局国際戦略室長)

登録日: 2020-08-27

最終更新日: 2020-08-27

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高齢化や生活習慣の変化に基づいて、アジアの低中所得国(LMIC)において癌の負担が増大していることは当欄にてお伝えしてきた。小児癌は、こうした後天的な影響を受けづらいと考えられており、罹患は地域差が小さい。

国際がん研究機関(IARC)が実施するInternational Incidence of Childhood Cancer(IICC)では、世界の国々から統計情報を集め、データブックとしている。アジアからも数カ国が参加している(https://iicc.iarc.fr/)。結果、0〜14歳の年齢調整罹患率(対100万)は、中国131.9、インド96.9、日本134.3、韓国135.9、フィリピン118.3、タイ111.4となった。このように、罹患パターンは類似しているが、生存率には大きな差がある。ロンドン大学による世界の住民ベース癌登録のデータをまとめたCONCORD3研究では、脳腫瘍、急性リンパ性白血病、悪性リンパ腫の3種類の小児癌の5年純生存率を算出している。日本や韓国ではそれぞれ、60〜70%、90%、90%という成績の一方、中国やタイでは、40%、60%、60〜70%程度にとどまっている。LMICにおいては、薬物療法をメインとした小児癌の標準治療の実施が困難で、医療の進歩の恩恵にあずかれていない。そもそも、小児癌は希少癌の一つであり、予防、診断、治療の知見の蓄積が不十分ということがある。加えて、International Society of Paediatric Oncology(SIOP)において発表された口演を基にまとめられた論文によれば(Basbous M, et al:Cancer Epidemiol. 2020;
101727.)、パキスタンなどのアジアでは、そもそも、貧困、無知による遅延や、両親の近代医療への意識やタブー、栄養失調やHIVなどの合併症が、小児癌医療の発展の大きな障壁であるとされている。

世界保健機関(WHO)は、こうした格差をなくし、2030年までにすべての小児癌患者の生存率を60%以上にするというスローガンのもと、Global Initiative for Childhood Cancer(GICC)を開始した。日本では、高水準の医療技術及び医療機器等をアジア諸国に提供するだけでなく、保険診療の法制化支援や社会学的な実装研究アプローチを加えた根本的な健康改善に貢献していくことが肝要である。

松田智大(国立がん研究センター企画戦略局国際戦略室長)[アジアの癌医療研究連携]

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